代理権の範囲および消滅事由について

 成年後見制度は、判断能力が不十分な人の判断能力を補い、その人がその人らしく生活していくための支援をする制度です。成年後見人は、財産管理と身上監護に関する法律行為を与えられた代理権と同意権・取消権に基づいて行います。今回はこの代理権についいて説明します。

代理とは

 代理」とは、本人以外の者が本人のために意思表示を行うことによって、その意思表示(契約などの法律行為)の効果が直接に本人に帰属する制度を言います。
 意思表示(法律行為)の効果は、その行為をした当事者に帰属するのが原則です。代理においては、行為をする者(代理人)とその効果が帰属する者(本人)が異なることになります。
 代理の法律関係には、他人(代理人)の行為によって効果を受ける「本人」と契約の「相手方」、本人の代わりに意思表示をなす、または受ける「代理人」の三者が登場します。代理人の行為の効果が本人に生じるためには.代理人に「代理権」があり「顕名」をして、「意思表示(代理行為)」をすることが必要となります。
 例えば、本人Aは、家屋を買おうと思ったが、不動産の売買に経験がなかったので、経験豊富な友人Bに購入を委託した。友人BはAの代理人としてCのところに行って建物を点検し、代金額や支払い方法を交渉し契約を結んだ。そして、Cに代金を支払い、登記名義をAに移し、一切の手続きを済ませて、Aから約束の報酬をもらったというような事例です。

代理の種類

 代理の種類には、「任意代理」と「法定代理」があります。人の意思にもとづいて代理権が生じる場合を任意代理と呼び、その代理人を任意代理人と呼びます。本人の意思に基づかずに代理権が生じる場合を法定代理と呼び、その代理人を法定代理人と呼びます。法定代理人には、親権者や成年後見人などが該当します。
 市民社会において、人が行う取引の規模や範囲が拡大していくと、一人だけですべての法律関係を処理することが難しくなってきます。そこで.他人を代理人とし.その意思に基づいて直接に自己の法律関係を処理させることを認めて個人の活動領域を拡張する制度が私的自治の拡張としての代理(任意代理)です。
 また。権利能力を有しながら自ら取引を行うには十分な判断能力を持たない人もいます。その人のために他人に法律行為ないし財産管理を行わせる制度が私的自治の補充としての代理(法定代理)です。

代理権の範囲

 代理権の範囲は、任意代理なら委任状や委任契約の内容に、法定代理ならば法定されています。たとえば、法定代理の場合は以下のような範囲に決められています。
 親権者、後見人…財産管理に関する包括的な代理権を有する
 保佐人、補助人…家庭裁判所の審判により決められた特定の法律行為につ
         いて代理権又は同意権・取消権を有する。
 財産管理人…民法103条に定められた範囲の代理権を有する

代理権の範囲が決められていない場合の代理権の範囲
 代理権の範囲が決められていない、または不明確の場合に代理人がどこまで代理行為をなすことができるかについては、103条が定めています。
(権限の定めのない代理人の権限)
 第103条 権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。
  一 保存行為
  二 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為

 保存行為とは、財産の現状を維持する行為である。家屋の修繕、未登記不動産の登記、期限の到来した債務の弁済が該当する。
 利用行為とは、財産の性質を変えない範囲内で利用することにより、当該財産について収益を図る行為である。現金を銀行に預金したり、金銭を利息付で貸すことが該当する。
 改良行為とは、財産の性質を変えない範囲内で改良することにより、当該財産の使用価値や交換価値を増加する行為である。家屋に造作を施すことや無利息の貸金を利息付に改めることが該当する。
 これらの行為は「管理行為」と呼ばれ、売買などの処分行為と対比されます。

代理権の消滅事由

 民法第111条の1項は法定代理権と任意代理権の共通の消滅事由を、2項では、任意代理特有の代理権消滅事由が書かれています。
  (代理権の消滅事由)
  第111条 代理権は、次に掲げる事由によって消滅する。
    一 本人の死亡
    二 代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと。
  2 委任による代理権は、前項各号に掲げる事由のほか、委任の終了によって消滅する。

 したがって、代理権消滅事由は以下のようになります。
 ①本人の死亡(任意代理・法定代理共通)
 ②代理人の死亡、代理人の破産手続開始、代理人に後見開始の審判(任意代理・法定代理共通)
 ③委任の終了(任意代理のみ)

 本人の破産は、代理権消滅事由とされていませんが、委任の終了事由となるので、任意代理の場合は、結果的に代理権が消滅することになります。
  (委任の終了事由)
  第653条委任は、次に掲げる事由によって終了する。
  一 委任者又は受任者の死亡
  二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。
  三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。

 なお、「本人の死亡」については、当事者に特段の合意があった場合や、委任による登記申請の代理であった場合は、代理権は消滅しません。特段の合意には、例えば、信頼できる人に、亡くなった後の入院費の支払いやお葬式の手配などの依頼をしておく死後事務委任契約による代理などです。

行政書士・社会福祉士竹内倫自のホームページ