財産管理等委任契約と任意後見契約


 財産管理等委任契約は、依頼する人(委任者)と、依頼を受ける人(受任者)の契約によって、財産管理や身上監護に関する事項について、代理権を与えるものです。任意代理契約とも呼ばれ、民法上の委任契約の規定に基づきます。財産管理委任契約は、当事者間の合意のみで効力が生じ、内容も自由に定めることができます。
今判断能力には問題がないが、身体が不自由になり、日常生活の財産管理などが難しいので誰かに任せたいといった場合に利用されます。委任契約は、その後本人が認知症になって判断能力が低下しても、契約は終了することはなく、継続させることができます。民法の委任契約の規定が、委任者が判断能力をなくしても契約を終了させる規定となっていないためです。

民法第653条(委任の終了事由)
 委任は、次に掲げる事由によって終了する。
1 委任者又は受任者の死亡
2 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。
3 受任者が後見開始の審判を受けたこと。

 財産管理等委任契約は、民間人同士が行う、いわゆる民民契約のため、後見制度のような監督機関がないところが欠点とされています。社会的信用度が十分でないため、金融機関によっては財産管理等委任契約書があっても、代理人の届を行わなければ、預貯金の引出し手続きを行うことができないところもあります。
 財産管理委任契約は、任意後見契約(移行型)とセットで利用される場合が多くなっています。判断能力がしっかりしている間は財産管理等委任契約を利用し、判断能力の低下がみられるようになってからは任意後見契約に移行するというものです。この場合の財産管理委任契約は、任意後見人監督人の選任により、委任契約は終了する旨を定めておきます。

財産管理等委任契約と任意後見契約の比較

財産管理等委任契約任意後見契約
任せられること財産管理・身上監護財産管理・身上監護
契約方法公正証書に限らない公正証書に限る
契約が発効する時期いつでも可能本人の判断能力が不十分になり、家庭裁判所で任意後見監督人が選任された時
支援をする人受任者任意後見受任者
監督する人なし任意後見監督人

財産管理等委任契約書(移行型)(例)

(契約の趣旨)
第1条 甲は、甲の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を乙に委任し、乙はこれを受任した。

第2条 乙がこの契約により管理、保管する財産は、甲に帰属する別紙「管理財産目録」記載の財産とする。
2 この契約締結後に管理対象財産を変更する場合は、甲と乙が書面により合意しなければならない。

(委任事務の範囲)
第3条 甲は、乙に対し、別紙「委任事務目録」記載の委任事務を委任し、その事務処理のための代理権を与える。

(証書等の引渡し等)
第4条 甲は、乙が行う本件事務処理のために証書等の引き渡しを受けたときは、甲に対し、その明細を記載した預
 り証を交付する。

(注意義務等)
第5条 乙は、この契約の趣旨及び甲の意思を尊重し、甲の身上に配慮するとともに、善良なる管理者の注意義務を
 もって、本件委任事務の処理にあたらなければならない。
2 乙は面談等を通じて、家庭裁判所に対する任意後見監督人選任の請求をなすべきか否かを、常に考慮し、判断し
 なければならない。
3 乙は、本委任事務の処理するにあたって、甲の作成したライフプランの内容を尊重しなければならない。
4 甲は、本件委任事務に関して知り得た甲の秘密を、正当な理由なく第三者に漏らしてはならない。

(書類の作成)
第6条 甲は、後見事務を処理するに際し、以下の書類を作成するものとする。
(1)契約を締結した時点の財産目録
(2)任意後見監督人選任時の財産目録
(3)本件委任事務に関する会計帳簿
(4)本件委任事務に関する事務処理記録
(5)この契約終了時における事務引継書及び財産目録
2 乙は、前項の作成書類を本契約終了後10年間保存しなければならない。

(報告義務等)
第7条 乙は、甲に対し、毎月、書面又は面談その他適切な方法で、本件委任事務に関する次の事項について報告す
 る。
 (1)乙の管理する甲の財産の管理状況
 (2)甲の身上監護につき行った措置
 (3)費用の支出及び使用状況
 (4)報酬の定めがある場合の報酬の収受
2 乙は、本契約が終了した場合、甲又は甲の相続人若しくは甲の法定代理人等に対して、遅滞なく清算事務に関する
 報告をしなければならない。

(費用の負担)
第8条 乙は、事務処理に必要な費用は、甲の負担とする。
2 乙は、前項の費用につき、その支出に先立って支払いを受けることができる。

(報酬)
第9条 
《報酬額の定めがある場合》 乙は、事務処理に対する報酬として毎月金…円を、甲の財産から支払を受けることができる。
《無報酬の場合》 乙の事務処理は、無報酬とする。

(契約の解除)
第10条 甲は、いつでも本委任契約を解除することができる。
2 乙は、この契約の趣旨に照らし、正当な理由がない限り、この契約を解除することができない。

(契約の終了)
第11条 この契約は、次の事由により終了する。
(1)甲又は乙が死亡たとき
(2)甲又は乙が破産手続開始決定を受けたとき
(3)甲又は乙が法定後見(後見・保佐・補助)開始の審判を受けたとき
(4)任意後見契約が解除されたとき
(4)任意後見監督人選任の審判が確定したとき

(契約終了時の措置)
第12条 乙は、本契約が終了した場合は、本件後見事務を甲又は甲の相続人若しくは法定代理人等に速やかに引継ぐ
 ものとする。残余財産及び証書等の引き渡しについても同様とする。
2 前項の事務処理に要する費用は、甲の財産から支出する。

(規定外事項)
第13条 この契約に定めのない事項及び疑義のある事項については、甲と乙が協議して定める。

委任事務目録
日常業務
1 預貯金の管理、払戻し、預入れ
2 定期預金、定額貯金の管理
3 生活費の送金や日用品の購入など日常生活に関する取引
4 預貯金通帳、登記済権利証(登記識別情報)、印鑑、印鑑登録カードその他重要書類の保管、管理
5 行政機関に対する諸手続(市区町村・社会保険庁に対する諸手続き等)に関する一切の事務
6 年金、福祉手当等の定期的な収入の受領及び管理
7 家賃・地代・公共料金・ローンの返済等定期的な支出の支払
8 医療、介護、福祉サービスその他生活にかかわる費用の支払
9 国民健康保険料、介護保険料、税金その他公共料金の支払
10 復代理人の選任、事務代行者の指定

身上監護
1 医療契約の締結、変更、解除及び費用の支払い
2 福祉・介護サービスの利用契約の締結、変更、解除及び費用の支払
3 要介護認定の申請及び認定に関する異議の申立て
4 福祉関係の措置の申請及び決定に関する異議の申立て
5 復代理人の選任、事務代行者の指定

管理財産目録

1 不動産

No所在家屋番号種類面積備考
1 (土地)福井市〇〇4丁目 〇番の〇 宅地 120.56㎡
2 (建物)福井市〇〇4丁目〇〇番地〇〇番の〇 居宅1階 99.53㎡
2階 60.85㎡
木造瓦葺2階建

2 預貯金

No 金融機関支店種類口座番号金額備考
〇〇銀行〇〇支店普通 123456 17,000,000円
ゆうちょ銀行通常貯金記号13345
番号0678910
5,340,000円

行政書士・社会福祉士竹内倫自のホームページ