成年後見制度の5つの問題点

 成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などで判断能力が不十分な方の財産管理、身上保護について後見人が代理人としてサポートする制度です。   高齢化が進む一方で、家族が縮小していく中、高齢者や障害者の権利擁護、生活支援を行っていく上で重要な制度となっています。
 成年後見制度の利用者数は年々増加傾向にはありますが、対象者の増加に比して、利用者が伸びていないことが問題とされています。
 成年後見制度の問題点も指摘されています。
 今回の投稿では、成年後見制度の5つの問題点と成年後見制度を利用せずに家族が財産を管理する方法について説明します。

(1)成年後見制度の5つの問題点

➀手続きに手間と費用がかかる
 成年後見制度の利用開始には、予想以上の手間と費用がかかります。
 申請には、診断書、財産目録、親族関係図、住民票、戸籍謄本など、多くの書類が必要になります。専門家に依頼する場合は、報酬が発生します。司法書士に依頼すると、10万以上の報酬が必要です。

➁本人の財産を家族で自由に管理できなくなる
 成年後見制度は、本人の財産を保護する制度のため、家族であっても本人の財産を自由に管理することができなくなります。
 当然なことではありますが、本人の財産は本人のためにしか使うことができなくなります。家族へ贈与や資産運用なども原則できなくなります。
 
③家族が後見人候に選ばれない可能性
 家庭裁判所は、本人の財産管理能力や親族間の関係性、後見業務の適性などを総合的に判断して後見人を選任します。そのため、たとえ本人や家族が特定の親族を希望していても、その人に適性が欠いていたり、不正利用の可能性がある、他の親族との関係が良好でない場合には、別の人が選任されることがあります。
 最高裁の統計によると、令和5年中に親族が成年後見人等に選任されたものが全体の約18%で、親族以外の第三者(弁護士、司法書士、社会福祉士など)が成年後見人等に選任されたものは、全体の約82%となっています。
 最高裁は、後見人には「身近な親族を選任することが望ましい」という考え方を示しており、実際データからも、親族後見人の認容率は約88%と高い割合で親族後見が認められています。
実は、親族を後見人候補者として申し立てている事案が少ないのが現状で、財産管理を任せる親族がいない、申立てに協力する親族がいない方の利用が増えています。
 
④専門職が後見人になる場合の高額な費用
 専門職が後見人が選任された場合、報酬の支払いが必要となります。
 基本報酬は、管理する財産が1,000万円以下の場合は2万円、1,000万円以上5,000万円以下の場合は3万~4万円、5,000万円を超える場合は5万~6万円
が目安となります。
 例えば、後見人報酬が月額2万円の場合、年間24万円もの費用が必要となります。本人の収入が年金のみの場合、これらの報酬支払いにより生活費を圧迫する可能性があります。
 このため、経済的に困難な状況にある被後見人の負担を軽減するために成年後見人の報酬助成制度が設けられています。成年後見人の報酬助成制度は、各自治体によって、後見人の報酬に対する助成が行われることがあります。助成の対象や申請方法は地域によって異なります。

⑤利用を途中でやめられない
 成年後見制度は、一度開始すると本人の判断能力が回復しない限り、途中でやめることができません。これは、制度の継続性を確保するための仕組みですが、実際の運用では様々な問題を引き起こしています。
 例えば、後見人との関係が悪化した場合や、高額な後見報酬の支払いが困難になった場合でも、制度を終了することはできません。後見人の変更は可能ですが、それにも相応の手続きと費用が必要となります。
 特にこの問題で重要なのが、専門家が後見人になる場合、後見が続く限り報酬の支払いが必要となる点です。費用負担が大きくなり辞めたいと思っても、やめることはできません。

 以上のような問題を防ぐためには、成年後見制度を検討する際に、その内容と潜在的なリスクをしっかり把握し、慎重に判断することが必要です。成年後見制度の申し立てが行われる前に、家族内でしっかりと話し合いを行い、共通の認識を持つことが重要です。

(2)成年後見制度を利用しない方法

 成年後見制度は財産管理や身上監護に有用な手段ですが、家族内で財産管理を円滑に行いたいのであれば、成年後見制度は避けるべきです。成年後見制度を利用しない方法をいくつか紹介します。

➀代理人カードを利用する。
代理人カードとは、預金口座の名義人の子や配偶者が代理人として、本人の口座に関するATMでの出入金などを行うために発行される、特別なキャッシュカードです。
口座を家族で管理したい場合や、本人の身体能力低下により、代わりに家族がATMでの取引を行いたい場合などに活用されます。代理人カードを申請できるのは、本人と生計を一にする家族と定められていることが一般的です。
本人確認が必要な窓口での手続きや、通帳・キャッシュカードの再発行などはできません。また、高齢者が口座名義人の場合は、不正利用や詐欺による被害などを防ぐため、通常よりも1日の出金額や振込額の上限が設定されてている銀行も多くあります。
代理人カードの利用には、本人が自ら金融機関窓口で手続きをする必要があります。
名義人本人の認知症や判断能力低下を銀行が把握した場合、銀行口座が凍結され、代理人カードも使えなくなることもあります。

➁任意後見制度の利用する。
成年後見制度には、大きく分けて法定後見制度と任意後見制度の2つがあります。
法定後見制度は、認知症などですでに判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所に後見人の選任の申立てをし、家庭裁判所が後見人を選任する制度です。
これに対して、任意後見制度は、判断能力があるうちに、予め自分の後見人となる人を決めておき、財産管理や療養看護に関する委任契約を結んでおき、本人の判断能力が低下したら、任意後見人を監督する任意後見監督人を選任する申立てをし、任意後見監督人が選任されてから契約が発効する制度です。
 認知症に備えて、将来の対策をしておきたいという人には、任意後見制度が向いているといえます。本人の判断能力が十分なうちに委任する契約内容を定めることができるため、本人の希望に応じた財産管理や療養看護が可能になります。

③家族信託を利用する。
家族信託は、財産の管理や運用を信頼できる家族に委託する制度です。この制度では、財産を持つ人(委託者)が、信頼する家族(受託者)に財産の管理や運用を任せる信託契約を結びます。家族信託が向いているのは、賃貸不動産などの収益物件をお持ちの方で、家族で柔軟な財産の管理をしたいケースです。
成年後見制度では本人の財産の保護に重点をおいているため、積極的な資産運用はできませんが、家族信託では、信託契約で定めた範囲内ならば、自由に財産の管理・運用・処分をすることができます。
家族信託では、本人の死後の二次相続人を指定しておくこともできます。
 家族信託は、任意後見制度と同じく契約行為であるため、本人に契約内容が理解できる程度の判断能力が必要です。判断能力が不足していると見なされると、契約は無効となる可能性があります。

④財産管理委任契約を利用する
 財産管理委任契約は、信頼できる他者に財産管理や療養看護を任せるための契約です。任意代理契約ともいいます。
財産管理委任契約は、任意後見契約のように公正証書で作成する必要もなく、監督人が選任されるわけでもないため、社会的な信用度が低く、金融機関によっては財産管理委任契約に基づく代理手続きを認めていない場合があります。そのため、任意後見契約とあわせ公正証書で作成する場合が多いです。
 あくまで銀行口座の名義は本人のままであるため、定期預金の解約などの手続きでは、各機関から選任された代理人ではなく本人の意思の確認を求められことが多くあります。

 
 高齢化の進展や単身世帯の増加等により、今後も成年後見制度に対するニーズの増加していくことが見込まれています。成年後見制度を利用しやすくする必要があるということで、国の方でも成年後見制度の見直しが検討されています。令和6年2月には法務大臣が成年後見制度の見直し、法改正を法制審議会に諮問しています。
 この中で、現状、利用動機となった課題(遺産分割等)が解決すれば終了する期間限定制や、本人の状況に合わせて後見人の 交代が可能となる仕組みを検討するなど法改正に向けた具体的な検討が行われています。
 今後どういった内容になるか注目されます。
 

行政書士・社会福祉士竹内倫自のホームページ