成年後見制度の申立て理由

成年後見制度の利用状況

成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などで判断能力が不十分な方の財産管理、身上監護について後見人が代理人としてサポートする制度です。   最高裁判所事務総局家庭局が発表している資料「成年後見関係事件の概況 ―令和5年1月~12月―」(令和6年3月)によると、成年後見関係事件の申立件数は合計で40,951件(前年は39,719件)であり、前年に比べて約3.1%の増加となりました。
 令和5年12月末日時点で、成年後見制度の利用者数は合計で249,484人(前年は245,087人)であり、前年に比べて約1.8%の増加となっています。
 ところで、成年後見制度はどのような理由で申立てがされているのでしょうか、最高裁判所事務総局家庭局が発表している資料から、説明します。

成年後見制度の申立て理由

 最高裁判所の資料によると、成年後見制度の申立ての動機の順位は下記のとおりです。(申立ての動機は1件の申立てにつき複数ある場合がある。)
1位 預貯金等の管理・解約(31.1%)
2位 身上保護(24.3%)
3位 介護保険契約(14.3%)
4位 不動産の処分(11.8%)
5位 相続手続き(8.5%)
6位 保険金受取(5.5%)
7位 訴訟手続(1.9%)
その他(2.4%)です。
 主な申立ての動機としては、預貯金等の管理・解約が最も多く、次いで身上保護、介護保険契約となっています。

(1)預貯金等の管理・解約
 預金通帳やキャッシュカードは名義人本人が管理するのが原則です。預貯金の名義人が銀行の窓口やATMに出向くのが難しくなったり、預金の引き出し手続きができなくなったりすると、金融機関から成年後見制度の利用を勧められることになります。
 本人の介護や医療費の支払いなどに限って家族が代わりに預金を引き出すことに応じてくれる場合もありますが、これはあくまで例外的な扱いです。

(2)身上保護/介護保険契約
 生活全般にわたって本人を保護するために必要な支援を行うことを「身上保護」といいます。また、介護サービスを利用するには、施設や事業者と契約をするといった手続きが必要になります。判断能力が不十分な場合は身上保護や介護保険契約を行う後見人が必要となります。

(3)不動産の処分
生活費を捻出するために自宅不動産を売却することが必要なケースもあります。自宅不動産の名義人が認知症になってしまうと売却や処分もできなくなります。また、アパートなどの収益物件がある場合は、賃借人との契約やアパートの管理ができなくなるなどのリスクがあります。そのため、成年後見の申立てが行われることがあります。

(4)相続手続き
 相続人が複数いる場合は、誰がどの財産をどれだけ相続するのかを決めるために遺産分割のための話し合い(遺産分割協議)が必要となり、この協議を有効に成立させるには、各相続人に判断能力があることが前提です。このため、認知症の相続人がいると、遺産分割協議が有効に成立しないことがあります。そのため、相続手続きを目的とした成年後見の申立てが行われることがあります。

(5)保険金の受取り手続き
 生命保険金の請求は基本的には受取人が行います。 しかし受取人が認知症等で意思能力が無く、自ら請求手続きを行えない場合は、通常受取人の親族がその請求手続きを行うことになります。親族がいない場合等は保険金を受け取る手続きのために成年後見制度を申し立てる場合があります。

(6)訴訟手続
 本人の財産を守るために訴訟を提起したり、本人が当事者となる訴訟で法定代理人が必要なことがあります。訴訟自体は弁護士に委任するのが一般的ですが、弁護士との委任契約には本人の意思能力・判断能力が求められます。例えば、不動産に関する権利を巡る争いや、金銭の貸し借りに関する訴訟などが考えられます。

選択肢のあるうちに備えを

 申立ての動機は以上のとおりです。成年後見制度は判断能力が低下した後の事後の措置です。本人が判断能力が低下してからしか利用できません。成年後見制度は、利用手続きが煩雑であるとか、第三者が成年後見人に選任されると費用がかかる、本人の財産、権利の保護が目的であるため積極的な資産運用できないなどデメリットもあります。
 本人が判断能力が低下する前であれば、任意後見契約や家族信託などの選択肢も考えられます。
 誰しも高齢になると身体的に不自由が生じたり、認知症になったりするリスクがあります。選択肢があるうちに、早めに備えておくことが必要です。

行政書士・社会福祉士竹内倫自のホームページ