成年後見制度の概要と利用手続き

 高齢化が進む一方で、家族が縮小していく中、高齢者や障害者の権利擁護、生活支援を行っていく上で重要な制度であることは間違いないでしょう。                                           この記事では、成年後見制度の概要や利用手続きについて説明します。

(1)利用状況

 認知症になって判断能力がなくなると、自分で預貯金の解約、不動産の売却、遺産分割協議などができなくなります。
 成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などで判断能力が不十分な方の財産管理、身上監護について後見人が代理人としてサポートする制度です。
最高裁判所事務総局家庭局が発表している資料「成年後見関係事件の概況 ―令和4年1月~12月―」(令和5年3月)によると、令和3年12月末日時点における、成年後見制度(成年後見・保佐・ 補助・任意後見)の利用者数は合計で245,087人(前年は239,933人)であり、対前年比約2,1%の増加となっている。開始原因としては、認知症が最も多く全体の約63.2%を占めています。
 認知症高齢者の推計人数は、現在600万人に達しているとみられています。加えて、精神障がい者が約370万人、知的障がい者が約110万人ほどいるとみられています。これらをすべて合わせると、判断能力が不十分な人は全国でおよそ1000万人にものぼりますが、成年後見制度を利用している人は約24万人に過ぎず、潜在的な後見ニーズのわずか2%を満たしているに過ぎません。
 成年後見制度は、2000年4月介護保険制度とともにスタートし、高齢者を支える車の両輪と言われてきましたが、対象者に比してまだまだ利用者が少ないということで行政が利用拡大を進めています。 
 成年後見制度が本人の権利擁護のための制度であり、本人の生活支援の制度であるということがまだまだ世の中に広がらず、1度選任されると死ぬまで続くとか報酬が適正かといった、マイナスイメージが宣伝されているように思います。
 現実、本人の判断能力が相当低下した段階や、財産被害等の状況がすすみ、必要に迫られてようやく制度利用をするといった場合が殆どではないしょうか。親族関係が希薄になって、身寄りがないとか、あっても疎遠であるとか、申立てする親族もなく、福祉的な立場から市町村長が申立てをするケースが増えており、市区町村長申立てが一番多くなっています。
 成年後見制度は民法上の制度で、裁判所が後見人を選任する制度であるため、手続きが煩雑であることは間違いないですが、一般社会で権利擁護の意識が広まらないとなかな制度の利用は広がらないように思います。
 参照:最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況 ―令和4年1月~12月―」

(2)成年後見の種類

 成年後見制度には、大きく分けて法定後見と任意後見の2つの制度があります。
 法定後見は、既に判断能力が低下した人に対して家庭裁判所が措置として行うものです。これに対して任意後見は、本人の判断能力のあるうちに、将来に備えて契約により定めておく制度です。

 法定後見制度は、認知症などにより既に判断能力が不十分な時に、申立により家庭裁判所によって選任された後見人等が本人に代わって財産や権利を守り、本人の生活を支援する制度です。本人の判断能力に応じて「補助」「保佐」「後見」の3つの制度があります。

(2)成年後見人の仕事

①身上監護
・介護契約や福祉サービスに関する契約、
・施設入所に関する契約
・医療に関する契約
・要介護認定に関する手続きなど
②財産管理
・定期的な収入の管理(年金など)
・定期的な支出の管理(施設費、入院費、税金や公共料金など)
・預貯金の管理(預貯金通帳の管理、預金等の出し入れなど)
・自宅を含む不動産の管理
・相続の手続き、など

(3)申立て手続きの手順

 以下のような手順で準備します
①まず、誰が申立てするのか決めます。
 法定後見の申立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族など。成年後見制度の利用については、周囲の都合でなく、事前に本人と話し合い、同意をとっておくことが基本です。本人の同意がない場合は、申立てが却下される場合があります。
 4親等内の親族の範囲 

②後見人候補者の検討
  後見人の候補者に、特に資格制限はありませんが、民法847条に欠格事由がさだめられており、ア、未成年者、イ、家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人、ウ、破産者、エ、被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族、オ、行方の知れない者、は後見人になれません。
 また、申立人が後見人候補者とした人について、親族間に異議があると、その候補者が選任されず、第三者(弁護士、司法書士、社会福祉士等)が選任される可能性が高いです。
③「本人情報シート」の準備・手配
 本人を支援している福祉関係者、ケアマネジャー等に作成を依頼します。(作成してもらうことが難しい場合には不要)
④かかりつけ医に診断書の作成依頼
 かかりつけ医に診断書の作成を依頼する際には、「本人情報シート」で情報提供します。
⑤親族への意見書徴取
 本人の推定相続人から申立てについての意見書をもらいます。(作成してもらうことが難しい場合には不要)
⑥申立て書の作成と添付書類の収集
 チェックシートを参照して、必要な書類を揃えます。
⑦家庭裁判所へ申立面接の予約、の申立て
 申立書と添付書類が出来たら裁判所に電話し、受理面接日時を予約します。
 

(4)申立書類

 申立書類
  ①後見(保佐・補助)開始申立書
  ②代理行為目録(保佐・補助開始申立用)
  ③同意行為目録(補助開始申立用)
  ④申立事情説明書
  ⑤親族関係図
  ⑥親族の意見書
  ⑦後見人等候補者事情説明書(候補者の方がいない場合には提出は不要)
  ⑧財産目録
  ⑨収支予定表
  
 添付書類
  ①本人の戸籍謄本(戸籍の全部事項証明書)(発行から3か月以内のもの)
  ②本人の住民票又は戸籍附票(発行から3か月以内のもの)
  ③成年後見人等候補者の住民票又は戸籍附票(発行から3か月以内のもの)
  ④本人の診断書
  ⑤本人の情報シート写し
  ⑦本人の健康状態に関する資料 (介護保険被保険者証、療育手帳(愛の手帳)、 精神保健福祉手帳などの写し)
  ⑧本人記がされていないことの証明書(発行から3か月以内のもの)の成年被後見人等の登
  ⑨本人の財産に関する資料 (預貯金通帳、不動産登記事項証明書、ローン契約書の写しなど)
  ⑩本人が相続人となっている遺産分割未了の相続財産に関する資料(預貯金通帳、不動産登記事項証明書など)
  ⑪本人の収支に関する資料(年金振込通知書、給与明細書、家賃・地代領収書、施設利用料、入院費など)
  ⑫成年後見人等候補者が本人との間で金銭の貸借等を行っている場合は、その関係書類(例:借用書、担保権を設定した契約書、保証に関わる契約書など)

(5)申立てに必要な費用

 ①申立手数料  
  収入印紙800 円~2,400円分
  ※同意権や代理権付与を求める場合は、別途 800 円分が必要
 ②連絡用郵便切手
  後見開始 2,275円分、保佐・補助開始 3,275 円分
  ※申立てする家庭裁判所に確認ください。
 ③登記手数料
  収入印紙 2,600 円分
 ④鑑定費用
  鑑定が必要な場合はその費用 50,000円程度
  ※申立て手続きについては、 裁判所の成年後見サイトをご覧ください。

(6)法定後見のメリット、デメリット

メリット
 ①本人の生活を安定させることができます。
  判断能力を失った後でも本人の財産を本人のために使用することができる。必要な契約を本人に変わって行うこ
 とができる。親族による財産の使い込みなどを防ぐことができます。
 ②家庭裁判所の監督の下、後見業務を行います。
  →裁判所の監督の下に適切に後見業務を行うことになります。仮に後見人として相応しくない行為をした場合に
 は、後見人が交代となります。
デメリット
 ①制度を利用すると原則として、本人が亡くなるまで続き、途中で中止することはできません。
  →本人が亡くなるか、判断能力が回復するかいずれかの場合でなければ、後見制度の利用を中止することはでき
 ません。
 ②本人の財産は、本人のためにしか使うことができなくなります。家族であっても自由に使うことはできなくなり
  ます。
  →当たり前のことですが、ご本人の財産はご本人のためにしか利用することはできません。家族や他人に贈与す
  ることは原則として認められていません。
 ③相続対策や資産運用はできなくなります。
  →本人の財産の保全が目的ですから、資産活用や相続対策などはすることができません。ただし、後見開始時に
  既に運用されている株式等についてはそのまま保有していても問題ありません。
 

(7)成年後見人の報酬

 成年後見人の報酬は,成年後見人の申立てにより、家庭裁判所がその事務内容や管理する財産を考慮して決定しています。専門職が成年後見人等に選任された場合については、標準的な報酬額の目安は次のとおりです。
 生活保護を受けている方など報酬の負担が困難な方に対しては、行政の助成制度があります。

被支援者の管理財産  報酬(月額)
1,000万円以下 20,000円
1,000万円以上5,000万円以下30,000円~40,000円
5,000万円以上 50,000円~60,000円

(8)後見人と遺産分割協議

 ① 成年後見人が選任されている場合
  成年被後見人が相続人の一人である場合は、成年後見人がその相続人の代理人として、遺産分割協議を行いま
 す。原則として本人の法定相続分の確保が求められます。
 ②保佐人が選任されている場合

  被保佐人で被保佐人でが遺産分割協議をするには、保佐人の同意が必要です。保佐人の同意なくして行った遺産
 分割協議は取り消すことができます。なお、本人の同意があれば、家庭裁判所に申立て、遺産分割の代理権を得る
 ことができます。
 ③補助人が選任されている場合
   家庭裁判所の審判により遺産分割協議に関する代理権又は同意権が補助人に付与されている場合に限り、補助人
 が本人に代わり、遺産分割協議を行う、あるいは同意を得ずに行った協議を取り消すことができます。

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