成年後見制度の利用が進まない理由

 成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などで判断能力が不十分な方の財産管理、身上監護について後見人が代理人としてサポートする制度です。高齢化が進む一方で、家族が縮小していく中、高齢者や障害者の権利擁護、生活支援を行っていく上で重要な制度となっています。
 成年後見制度は、平成12年4月介護保険制度とともにスタートし、高齢者を支える車の両輪と言われてきましたが、対象者の増加に比して、利用者が伸びていないことが問題とされています。

1 利用者が伸びない

 最高裁判所事務総局家庭局が発表している資料「成年後見関係事件の概況―令和4年1月~12月―」(令和5年3月)によると、成年後見関係事件(後見開始、保佐開始、補助開始及び任意後見監督人選任事件)の申立件数は合計で39,719件(前年は39,809件)であり、対前年比約0.2%の減少となりました。
 令和4年12月末日時点で、成年後見制度(成年後見・保佐・ 補助・任意後見)の利用者数は合計で245,087人(前年は239,933人)であり、対前年比約2.1%の増加となっています。利用者の総数は増えているものの、認知症高齢者の推計人数は、現在600万人に達しているとみられています。加えて、精神障がい者が約370万人、知的障がい者が約110万人ほどいるとみられています。これらをすべて合わせると、判断能力が不十分な人は全国でおよそ1,000万人にものぼりますが、成年後見制度を利用している人は約24万5千人と、潜在的な後見ニーズのわずか2.5%を満たしているに過ぎません。
 成年後見制度の利用を促進するため、平成28年(2016年)に成年後見制度の利用促進に関する法律が施行され、国は成年後見制度の利用促進に関する取り組みを進めています。

2 利用されない理由

(1)本人が利用を望まない
 「自分はまだしっかりしているので後見人はいらない」と主張して成年後見制度の利用を望まない場合がありま す。自分が認知症であることを認めるのを嫌がるのは、認知症が持つ特徴でもあります。法定後見の申立てには医師の診断書が必要ですが、認知症の診断を受けるために本人を病院に連れて行くのに苦労している家族が多々います。
   
(2)後見制度を利用しなくてもなんとかなってしまう
 明らかに成年後見制度の利用が必要と思われる場合でも、家族が申立てをしないということも多々あります。介護施設の入所にあたって事実上家族が本人に代わって契約をすることを認めている施設はまだ多いと思います。利用料は口座引落が可能ですし、本人のキャッシュカードを預っていれば、家族で支払いは可能です。
 2021年2月18日に全国銀行協会は、親族等による無権代理取引について、顧客本人の財産保護の観点から、成年後見制度等の利用を促すのが基本としながらも、本人の介護や医療費の支払いなどに限って法定代理人ではない親族でも、認める方針を出しています。
 このように、たいていの手続は家族でできてしまうので、敢えて法定後見の申立てするまでもなく、敢えて成年後見制度を使おうと考えないケースが多いと思われます。
  
(3)利用手続きが煩雑 
 成年後見制度を利用するには、家庭裁判所に後見人選任の申立てを行う必要があります。申立てにあたっては、添付書類が多岐にわたり、かなりの手間がかかります。医師の診断書、ケアマネージャー等の本人情報シート、財産目録、収支予定表、戸籍謄本、登記されていないことの証明書等の関係資料の収集など相当の手間がかかります。司法書士や弁護士に頼むと報酬だけでも最低10万円以上はかかります。判断能力が低下し、かつ資力の乏しい方は、申立支援を自ら求めることが出来ず、地域包括支援センターや市町村の支援を求めるしかありません。、

3 増える市町申立て

 近年、市町村長申立て数が増えています。
 20年前の2002年(平成14年)には全体の1.9%(258件)にすぎなかった市町申立ては、令和4年(2022年)には、全体の23.3%(9,229件)と大幅に増加しています。市町村長は、老人福祉法等により、65歳以上の高齢者等につき、その福祉を図るために特に必要があると認めるときは、積極的に申立権を行使しなければならないことになっています。高齢者単身世帯の増加する中、身寄りのない高齢者や家族がいても支援を受けれない人も多くなっており、そうしたケースにおいて、市町村申立てが増えているということでしょう。
 市町村申立ての受任者は弁護士、司法書士、社会福祉士等の専門職後見人が占めています。近年では、生活保護受給者の申立ても多くなっています。成年後見制度は民法の制度ですが、家族というセーフティネットが期待できなくなった社会の中で、家族に替わるセーフティネットとなっています。

4 利用者が伸びない要因は?

 老いた親の財産を子が管理するということに違和感を覚えない人が多いです。家族にはその権限がないという意識はありません。家族だから当然だと思っているようです。制度の利用しにくさはあるものの、成年後見制度の利用が伸びないのは、日本の社会がまだ契約や権利擁護に対する意識が低いためではないかと思われます。
 そうした中で、成年後見制度が、家族の機能を代替する制度として、福祉政策の中に位置付けられ、資力がある人より、資力もなく家族の支援が受けられない人が利用者の大半を占めているような制度になっています。
 現在、本人の課題にあわせて必要な範囲、期間に代理権を限定するとか、報酬を働きに応じたものに見直すとかの制度の改善が検討されていますが、そうした改善策が利用者の増加につながっていくのか疑問に思います。

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