成年後見人等の職務

 高齢者や障害者に対する生活支援の重要なツールになっている成年後見制度。家族関係が希薄になり、社会福祉士等の第三者による後見人になるケースが増えています。成年後見人等(成年後見人、保佐人及び補助人)の約8割が社会福祉士、弁護士、社会福祉士等の第三者後見人です。 
 今回は、成年後見人等の職務いついて説明します。

1 成年後見人等の職務

 成年後見人等の法律上の職務は、本人の「生活、療養看護および財産の管理に関する事務」(民法858条)を行うことです。「生活、療養看護に関する事務」は「身上監護」とも呼ばれています。
 成年後見人等が行う事務は、「財産管理」と「身上監護」から構成されていますが、具体的には、以下のような内容です。
(1)財産管理
  ①財産の管理、保存、処分等に関する事項
  ②金融機関との取引に関する事項
  ③定期的な収入の受領及び費用の支払いに関する事項
  ④生活に必要な送金及び物品の購入等に関する事項
  ⑤相続に関する事項
  ⑥保険に関する事項
  ⑦証書等の保管及び各種の手当に関する事項
  ※保佐人、補助人については、付与された代理権の範囲内においてのみ財産管理権を有する。
(2)身上監護
  ①医療に関する事項
  ②住居の確保に関する事項
  ③施設の入退所、処遇の監視・異議申立て等に関する事項
  ④介護・生活の維持に関する事項
  ⑤教育・リハビリに関する事項
  ⑥就労に関する事項
  ⑦余暇活動に関する事項
  ⑧異議申し立て等の公法上の行為
  ⑨アドヴカシ―
  ①~⑤に関しては、契約の締結・解除、相手方の履行の監視、費用の支払いが含まれる。

(3)法律行為に付随する事実行為
  これら成年後見人等が行うべき「事務」とは、財産管理と身上保護に関する法律行為を意味しています。そして
  この法律行為は、①私法上の行為と②公法上の行為の2つに大きく分けることができます。
  「①私法上の行為」としては、契約の締結や解除等(不動産の売買、賃貸借契約、施設入居契約、医療・介護サ
  ービスの契約など)が挙げられます。また「②公法上の行為」としては、行政への申請や不服申立て等(住民票
  等の取得、生活保護の申請、要介護認定の申請や審査請求など)が挙げられます。成年後見人等が行うべき「事
  務」とは、法律行為を行うことなので、事実行為(本人の介護や世話など)を行う必要はありません。
   ただし、法律行為を行うために必要となる事実行為(施設入所の際の施設の情報収集・施設見学、契約の履行
  状況の確認など)については、行う必要があります。

2 財産管理と身上監護の関係

 財産は本人の生活の維持、向上のために管理、利用されるべき、つまり財産管理はそれ自体が目的なのではなく、あくまで本人の身上保護のための手段として行うべき
 ものと考えるべきです。つまり財産管理はそれ自体が目的なのではなく、あくまで本人の身上監護のための手段として行うべきものです。

3 成年後見人の職務上の義務

 成年後見人等は上記の職務を遂行するうえでの指針として、「身上配慮義務」と「善管注意義務」があります。
(1)身上配慮義務
  「成年後見人は、成年被後見人の生活、療養監護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。」(民法858条)これは身上配慮義務といわれています。この義務は成年後見人が本人の身上面について負うべき善管注意義務の内容を具体化し明確にしたものとされています。成年後見人は、本人の生活や療養監護の事務を行うほか、本人の財産を本人の利益のために管理しなければなりません。そのため、本人の意向をよく聴きし、本人の生活よく見守る必要があります。
(2)善管注意義務
  「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」(民法644条)、「受任者の注意義務、後見において準用する」(民法869条)善管注意義務とは、職業上や社会通念上、客観的に期待される程度の注意義務で、自己の財産におけるのと同一の注意をなす義務(自己同一注意義務)よりも重い義務です。この注意義務を怠って何らかの損害や損失を与えた場合は賠償責任を負うことになります。

4 職務に含まれない事項

(1)一般的事項
  ア、成年後見人等の権限は、付与された代理権、同意権・取消権の範囲に限定され、
    それ以外の行為には権限がありません。権限外の代理は無権代理となります。
  イ、本人の意思に反する身体的強制はできません。
    成年後見人等はその事務の遂行にあたっては、成年被後見人等の意思を尊重する義務が課せられていますの
   で、健康診断の受診・入院や施設への入所、介護、教育・リハビリ等を、本人の意思に反して強制的に行うこ
   とはできません。
  ウ、一身専属的な権利の代理は認められません。
    例えば遺言や結婚・離婚、認知、養子縁組等がこれに含まれます。これらは、一身専属的な行為として代理
   に親しまないために、成年後見人等の権限としては与えられていません。
(2)注意を必要とする事項
  ①居住用の不動産の処分
   成年後見人等が本人の居住の用に供する建物またはその敷地についての売却・賃貸、賃貸借の解除または抵当
  権の設定、その他これらに準ずる処分を行うには、家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法第859条
  の3)。本人の居住用不動産の処分には、本人の心身の状態及び生活の状況への影響が大きく、十分な配慮が求
  められるからです。このため、客観的・中立的な立場からの判断をするために家庭裁判所の許可が必要とされて
  います。
  ②身元保証人(身元引受人)になること
   入院や施設入所にあたり、身元保証人(身元引受人)を立てることを求められることが一般的ですが、身元保
  証人(身元引受人)がないことをもって入院、入所を拒否する正当な理由にはならないとされています。近年で
  は、成年後見人等がいる場合は、身元保証人(身元引受人)を求めない施設も増えてきています。
   成年後見人等が、身元保証人(身元引受人)にはるのは適当ではありません。なぜなら、成年後見人等は、本
  人の法定代理人であるところ、本人と一緒に債務を負担するとすれば、利益が相反してしまうからです。一般的
  に、身元保証人(身元引受人)に求められていることは、次のような役割です。
   ア、緊急時の連絡先となること
   イ、病院での治療方針や施設でのケアプランの同意
   ウ、入院又は入所中に必要な物品の準備に関すること
   エ、入院費利又は用料の支払いが滞った場合及び病院又は施設に損害を与えた場合の保証に関すること
   オ、退院又は退所する際の手続きや適切な受け入れ先の確保に関すること
   カ、亡くなった時の身柄、遺留品の引き取りに関すること
   身元保証人(身元引受人)に何を求めているのか、確認の上、成年後見人等としてできること、できないこと
  を説明の上、理解を求めてください。
  ③医的侵襲を伴う医療行為に対する同意
   成年後見人等は、病院もしくは医師との医療契約の締結する権限はありますが、個別具体的な「医的侵襲行
  為」への同意はできません。本人に医療行為に対する同意能力がない場合は、一般的に家族に同意を求めること
  になりますが、家族がいない場合又は家族が判断できない場合は、医療・ケアの専門職がチームとして、本人に
  とっての最善の方針をとるものとされています。(「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人
  への支援に関するガイドライン」)
  ④死後事務
   成年被後見人等(成年後見人、保佐人及び補助人)が亡くなった場合、成年後見人等の職務は終了します。死
  亡後の事務として、家裁への報告、管理の計算、相続人への財産の引継ぎが主な事務となります。しかし、親族
  がいない場合やいてもかかわりたがらない場合、成年被後見人等が死亡の届出や火葬の手配など一定の範囲で死
  後事務に関与していく場合があります。
   平成28年の民法改正により、後見、保佐、補助類型のうち、後見類型については、成年後見人が死後事務を 
  行うことができることとされました。成年後見人は、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなとき
  を除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、ア、相続財産に属する特定の財産の保存に必要
  な行為、イ、相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済、ウ、その死体の火葬又は埋
  葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相
  続財産の保存に必要な行為、をできることとされました。ただし、ウについては、家庭裁判所の許可が必用。
  (民法873条の2)
   保佐人や補助人については、こうした規定が適用されないため、必要な場合は、応急処分義務(民法874
  条、654条)や事務管理(民法697条)を根拠として死後事務を行うことになります。

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