預金の相続手続きに遺産分割協議書は必要か

 相続が開始して、故人の名義の銀行預金を解約するにあたって、遺産分割協議書を作成する必要があるのでしょうか。遺産分割協議書を作成しなくてもいいなら、作成しない方が手間が省けていいと思いませんか?
 今回は、相続した預金の解約手続きに遺産分割協議書は必要か、についてお伝えいたします。

遺産分割協議書がなくても預金解約はできる

 結論をお伝えすると、預金の相続手続きに遺産分割協議書は必ずしも必要ではありません。遺産分割協議書を作成していなくても預金の相続手続きはできます。遺産分割協議書があれば金融機関への提出が必要ですが、作成していないのであれば提出は不要です。

遺産分協議書がない場合の手続き

 遺産分協議書がない場合は、金融機関所定の「相続手続き依頼書」に相続人全員が署名し、実印で押印します。
 相続人全員が署名、捺印し、印鑑証明書の提出が必要という点で言えば、遺産分割協議書の場合も相続人全員が署名、捺印し、印鑑証明書を提出しますから、手間は変わりません。また被相続人の死亡から出生にさかのぼる連続した戸籍謄本や相続人全員の戸籍謄本も必要になるのも同じです。

では何が違うのか

 「相続手続き依頼書」による預金の相続手続きは、いったん代表相続人が受け取って後で他の相続人へ分ける場合が多いです。しかし、代表相続人が受け取ったものを、後日他の相続人へどう分配するか決まっていないと、分配した金額について税法上「贈与」とみなされる可能性が生じます。これを避けるためにはやはり先にどう分配するのか遺産分割協議書を作成する必要があります。

遺産分割協議書の作成が必要な場合

①複数の銀行の相続手続きがある場合
 「相続手続依頼書」は、金融機関ごとに所定の様式があり、金融機関ごとに内容が異なるため、それぞれの金融機関から取り寄せ、「相続手続き依頼書」と戸籍等を提出する必要があります。金融機関の数が多いほど手間がかかります。
 遺産分割協議書があれば、遺産分割協議書1通のみに相続人全員の署名捺印をもらえばよいだけですから、結果としてその方が間違いも少なく、簡単だということになります。
ちなみにこの場合、「相続手続き依頼書」には代表相続人のみが署名捺印をすれば手続きが行えます。

② 相続税が生じるような場合
 もともと財産が多く、相続税の申告納付が必要な場合は、「相続手続き依頼書」で預金を解約できたとしても、相続税の申告に、遺産分割協議書の添付を求められます。
 この場合、「相続手続き依頼書」にも相続人の署名、捺印をもらい、その後「遺産分割協議書」にも相続人の署名、捺印をもらわなければならないということで2度手間になってしまいます。

 遺産分割協議書がなくても相続手続きはできるが、2度手間になったり、後で問題が生じる場合があるということです。

行政書士・社会福祉士竹内倫自のホームページ