相続人に認知症の人がいる場合

家族が代理できない

 相続は、遺言書がない場合は、相続人全員の協議によって遺産を分割しなければなりません。遺産分割協議は法律行為であるため当人に判断能力が必要です。
 高齢化、長寿化が進む中、夫(又は妻)が亡くなると、他方の妻(又は夫)も高齢化しており、認知症になっている可能性も髙くなってきています。
 認知症といっても症状や程度は様々で、認知症だからといって遺産分割する能力がないというわけではありませんが、少なくとも遺産の内容について理解して、この分割でいいかどうかを合理的に判断することができなければ、遺産分割協議に参加することはできません。こうした判断能力を欠いているということであれば、法律上正当な代理人を付けるしかありません。
 他の相続人が本人の代わりに協議したり、協議書に署名押印したりすると、その遺産分割協議は無効となります。

成年後見人による遺産分割

 判断能力不十分な方の権利擁護を行う制度として成年後見制度があります。
成年後見制度には、大きく分けて法定後見と任意後見の2つの制度がありますが、法定後見は既に判断能力が低は下した人に対して申立てにより家庭裁判所が後見人を選任する制度です。これに対し、任意後見は判断能力があるうちに、信頼できる人と契約し、後見人を定めておく制度です。
 法定後見制度は、本人の判断能力に応じて「後見」、「保佐」、「補助」の3つの類型があります。後見であれば、後見人は日常生活に関する行為以外について全般的な代理権を持っているため遺産分割協議を本人に代わって行うことができます。
保佐人は、重要な財産上の行為について同意権(取消権)を持っているため、保佐人の同意を得ずに遺産分割協議をすることはできません・
補助の場合は、申立て時に本人の同意があれば補助人に遺産分割協議に関する代理権又は同意権を付与することができます。
 

成年後見制度を利用しない方法

 成年後見制度を一旦利用すると、原則として途中で止めることができず、本人が亡くなるまで継続することになります。また、本人の財産や権利を守るための制度なので、家族が自由に財産を管理、処分することができなくなります。
 専門職(弁護士、司法書士、社会福祉士)が後見人になると本人の財産から報酬を支払わなければなりません。
 令和4年の裁判所の統計では、成年後見人に親族以外の第三者(弁護士、司法書士、社会福祉士等)選任されたケースは全体の約81%を占め、親族が後見人に選任されたケースは全体の約19%でした。
 不動産については、法定相続分で登記をする場合には、相続人の1人が登記申請することができます。ただし、相続人全員の共有となるため、次に売却する場合は相続人全員の同意が必要で、結局は後見人をける必要が生じます。
 預貯金についても一定額(100万円)以下であれば、相続人の1人が相続手続きをすることができるので遺産分割協議は必用ありませんが、100万円以上の預貯金がある場合は相続人全員の同意が必要となります。
 いずれにしても、相続人に判断能力の不十分な人がいる一番の対策は、遺言書を作成しておくことです。遺言書があれば、遺産分割協議をせずとも不動産や預貯金について、相続手続きをすることができます。
 また、認知症になる前に任意後見契約をしておき、信頼できる第三者に任意後見人を指定しておき、遺産分割協議について代理権を付与しておく方法もあります。 
 
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