「任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならない。」(任意後見契約に関する法律第3条)とされており、任意後見契約書は必ず公正証書で作成する必要があります。任意後見契約を公正証書で作成する理由は、本人が判断能力不十分になった場合に、契約が締結された当時、本人の意思で間違いなく契約が締結されたのかわからないので、公証人に関与してもらうためです。
1 任意後見契約書の作成の流れ
(1)任意後見契約書(案)の作成
任意後見契約を結ぶ相手(受任者)と契約内容について決め、契約書案を作成します。当事者が案を作成するこ
ともできますが、行政書士や司法書士やといった専門職に契約書の作成を依頼することも可能です。
任意後見契約書に最低限記載すべき項目は以下のとおりです。
①契約の発効
②委任事務の範囲
③証書等の保管
④報酬、費用の負担
⑤任意後見監督人への報告
⑥契約の終了
⑦代理権の目録
(2)公証役場との事前打ち合わせ
作成した任意後見契約書案は公証役場に持参して、公証人にチャックしてもらいます。公証人と契約内容をすり
合わせして、最終的な任意後見契約書を作成します。
(3)任意後見契約日の当日
任意後見契約の内容が確定したら、契約日を決めます。当日は、本人と受任者が公証役場に出向き、公証人の面
前で契約を締結します。
公証人が任意後見契約の内容を読み上げますので、問題がなければ署名捺印をし、任意後見契約公正証書が完成
します。
2 任意後見人の代理権について
任意後見契約において、受任者が代理できる行為は代理権目録に記載された行為のみとなり、目録に記載されていない行為については代理することができません。
(1)代理権目録には、第1号様式と第2号様式がある
任意後見契約に関する法律第3条の規定による証書の様式に関する省令で「公証人は、任意後見契約に関する
法律第3条の規定による証書を作成する場合には、付録第1号様式又は付録第2号様式による用紙に、任意後見人
が代理権を行なうべき事務の範囲を特定して記載しなければならない。」と定められています。
この代理権目録は、第1号様式(チェック方式)か第2号様式(包括記載方式)のいずれかを選択して作成する
こととなっています。
(2)代理権目録に記載できない事項
次の事項は代理権目録に記載することはできません。
①法律行為ではない事実行為
介護施設等との契約や費用の支払いについては記載できますが、事実行為である介護行為や買い物の付き添い
など。
②身分行為
婚姻や離婚、養子縁組といったように、身分関係に関する法律効果を発生させる行為については委任すること
はできません。
③医的侵襲行為の同意
医療契約や医療費の支払いについては代理権を与えることはできますが、本人の生命・身体に危険を及ぼすお
それのある医的侵襲行為(注射や手術など)の同意に関しては記載できません。
④第三者の生活や療養看護の事務
本人の事務でないこと、例えば家族の療養看護の事務等については代理権目録に記載することはできません。
⑤死後事務
本人の死亡により、任意後見人の代理権は消滅してしまうため、本人が亡くなった後の事務(火葬、葬儀の契
約、費用の支払い等)については委任することはできません。死後の事務を委任する場合には、別途死後事務委
任契約を締結することとなります。
任意後見契約の見本