相続の開始により相続人は被相続人に属する一切の権利義務を承継することになりますが、資産よりも債務が多いような場合には相続人にとって酷となるときもあるるため、民法は相続人に対して相続財産を承継するかどうかについて選択する機会を与えています。
相続人は、自己のために相続開始のあったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述することで、限定承認又は相続放棄をすることができます。
この3か月間は、被相続人の財産の状況を調査して、承認するか放棄するかを検討するその調査・検討をするための期間として、「熟慮期間」と呼ばれています。この熟慮期間は家庭裁判所に,申立てすることにより、延長することも可能です。
(1)単純承認
被相続人のプラスの財産(不動産、預貯金などの資産)もマイナスの財産(謝金などの債務)も、全て承継することを単純承認といいます。相続の放棄又は限定承認をしなかったとき、又は相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときは、単純承認をしたとみなされます。
(2)限定承認
相続したプラス資産の範囲内で被相続人の債務について責任を負うことを限定承認といいます。
限定承認は、相続人が数人いるときは、相続人の全員が共同してのみ行うことができます。限定承認がされると、共同相続人のうちの1人を相続財産管理人に選任し、債権者への公告・催告や弁済等の相続財産の清算手続きを行うことになります。手続きが大変面倒なため、利用する人はほとんどいません。司法統計によると、2020年の家裁の受理件数は675件にすぎません。
(3)相続放棄
相続の放棄とは、債務を含めた相続財産の全ての承継を放棄することを言います。
相続放棄すると、相続債務の返済義務はなくなりますが、プラスの財産も放棄することになります。
相続放棄をするには、自己のために相続開始のあったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に申立てすることが必要です。一度相続放棄が承認されてしてしまうと撤回することはできません。
相続放棄をすると、放棄した者は、その相続に関しては初めから相続人とからなかったものとみなされます。したがって、相続放棄は代襲相続の原因とはならず、相続放棄した者の子に代襲相続は発生しません。また、相続放棄により、相続人や相続分に変更が生ずることになるので注意が必要です。
相続放棄は、引き継ぐ負債が資産を上回る債務超過の場合に相続放棄を選ばれることが多いのですが、最近は利活用できない負動産を引き継ぎたくないために放棄する例が増えているようです。司法統計によると、相続放棄の受理件数は2020年に234,732件と10年前に比べて4割弱増えました。2020(令和2)年の死亡数は137万2755人なので、亡くなった方の相続人の相当数の方が利用していると思われます。