法定相続人の中に行方不明の方がいらっしゃる場合、その方を除外したままで遺産分割協議はできません。
遺産分割協議や相続手続きを進めるためには、相続人間で書類のやり取りをする必要がありますので、住所がわかっていないと進めることができません。
このようなときはどうやって相続人の住所を調べれば良いでしょうか?また、住所を調べても所在がわからない場合の対応などについて説明します。
(1)戸籍の附票で住所を調べる
①本籍地を調べます
まず行方不明の方の本籍地を調べます。本籍地がわからない場合は、前に住んでいた住所がわかれば、その住
所地の役所で「住民票の除票」を戸籍の表示付きで取れば、本籍地がわかります。結婚、転居などで、他の市町
に本籍が変わっている場合は、「除籍謄本」を取れば、戸籍事項欄に、転籍先が記載されていますので、変更後
の本籍地が確認できます。
②戸籍の付票を取ります
本籍地がわかったところで、本籍地の市役所で、「戸籍の附票」を取ります。戸籍の附票は、本籍地の役所で
戸籍の原本と一緒に保管されている書類で、その本籍地にいる間の住所変更の履歴が記載されているものです。
これを取得すれば最終の住所地を調べることができます。
③行方不明の方に連絡を取る
最終の住所地が確認できたら、住所地に手紙を出す、または直接訪問などして、遺産分割の話し合いを進める
ことになります。
※住民票や戸籍、戸籍の附票を申請できるのは、同一戸籍または直系親族に限られます。
ただし、「権利を行使したり義務を履行するために必要なとき」ば、第三者でも取得することができます。請求
書にその旨を記載した上で、本人との関係がわかる戸籍等が必要です。
(2)不在者財産管理人の選任
これは、家庭裁判所に不在者財産管理人を選任してもらい、その不在者財産管理人が行方不明の方の代わりに
遺産分割協議に参加してもらって、遺産を分割するという方法です。
①不在者財産管理人選任申立ての手続き
申立ては、利害関係人(不在者の配偶者、相続人にあたる者、債権者など)が、行方不明の方の従来の住所地
か居所の住所地の家庭裁判所に対して行います。
不在者財産管理人には、行方不明の方と相続での利害関係のない親族(おじ、おばなど)が選任されるケース
が一般的ですが、弁護士や司法書士などの専門家が選任されるケースもあります。
申立てから不在者財産管理人選任の審判が確定するまでには2~3ヶ月かかります。
②必要な書類は、申立書の他に、
ア、行方不明の方の戸籍謄本
イ、行方不明の方の戸籍の付票
ウ、不在者財産管理人候補者の住民票または戸籍の付票
エ、不在の事実を証する資料(行方不明者届受理証明書など)
オ、不在者の財産に関する資料(不動産の登記簿、預貯金や有価証券の残高が分かる書類)
カ、申立人の利害関係を証する資料(戸籍謄本など)
キ、収入印紙800円分
ク、郵送用の切手(額は、家庭裁判所によります。)
※場合により、追加の資料提出を家庭裁判所から要請されることがあります。
③不在者財産管理人の権限外行為許可の申立ての手続き
不在者財産管理人が、不在者に変わって遺産分割協議をしたり、不在者の財産を処分する場合は、家庭裁判所
に権限外許可の申立てが必要です。申立ては、不在者財産管理人を選任した家庭裁判所に対して行います。不在
者財産管理人の選任の申立てと同時に行うこともできます。必要な書類は、申立書の他に、
ア、遺産分割協議書の案
イ、相続人を特定するための戸籍謄本など
ウ、収入印紙800円分
エ、郵送用の切手(額は、家庭裁判所によります。)
※場合により、追加の資料提出を家庭裁判所から要請されることがあります。
申立から許可が出るまでには1ヶ月程度かかります。
なお、行方不明の相続人の取り分が法定相続分を下回るような内容の遺産分割協議案に対しては、裁判所は原則
として許可をしません。
(3)失踪宣告の申立て
失踪宣告とは、不在者の生死が7年間明らかでないときに、その人を法律上死亡したものとみなす宣告をする
家庭裁判所の手続のことです。(行方不明の方が生きていることを前提としている不在者財産管理人の制度とは
この点が異なります。)
失踪宣告がなされると、法的に死亡したことになりますので、その方についても相続が発生します。したがっ
て、その方の法定相続人全員がその方の地位を受け継いで、被相続人についての遺産分割協議に加わることにな
ります。
なお、行方不明の方が生きていたことが判明した場合には、宣告自体は取り消されますが、既にした遺産分割
協議は無効にはなりません。
【失踪宣告の申立ての手続き】
申立ては、行方不明の方の最後の住所地の家庭裁判所に対して行います。必要な書類は、申立書の他に、
①申立人の戸籍謄本
②行方不明の方の戸籍謄本
③行方不明の方の戸籍の付票
④失踪を証する資料
⑤利害関係を証する資料(親族の方の戸籍謄本)
⑥収入印紙800円分
⑦郵送用の切手(額は、家庭裁判所によります。)
⑧官報公告料4,298円
※場合により、追加の資料提出を家庭裁判所から要請されることがあります。
申立てから失踪宣告が出されるまでには、約8ヶ月~1年程度かかります。不在者財産管理人選任の申立てよ
りも時間がかかるのは、官報公告の手続きがあるからです。