成年後見制度が大きく変わります

 「終われない制度」から「終われる制度」へ

成年後見制度の大きな見直しを行う改正民法が国会で成立しました。改正民法は2028年度中(公布から2年6か月以内)に施行される見込みです。
 今回は、新制度のポイントを説明します。

(1)今回の改正の方向

成年後見制度は、認知症・知的障害・精神障害などにより判断能力が低下した方を支援する重要な制度ですが、一方で、一度利用すると原則として亡くなるまで続く、必要以上に本人の権利制限が続く場合があるといった課題も指摘されていました。障がい者権利条約からの批判として、国連の障害者権利委員会による意思決定支援の優先や民法改正に関する勧告がなされていました。
今回の改正は、こうした課題を受けて行われたものです。

改正のポイント① 包括的な代理権が廃止し、必要性を個別に判断する
 改正後は、単に本人の判断能力の低下(医学的判断)のみで一律に制度を開始するのではなく、「本人の実際の生活状況に照らして、第三者による代理や取消しの権限付与が具体的に必要か」を個別に判断することになります。類型も、現行制度の「後見」「保佐」「補助」の区分はなくなり、補助類型へ一元化する方向となりました。
 改正後の成年後見制度における特定補助人(現行の「後見」に相当)の代理権の範囲は、現行制度の「後見人」のような包括的なものではなく、本人の個別のニーズに応じて家庭裁判所が定める「特定の法律行為」に限定される設計となります。
 例えば、施設入所契約の締結、特定の不動産の売却、特定の預貯金口座の管理などが、個別に審査・決定されます。必要な範囲で付与されるオーダーメイド型の権限へと変化します。

改正のポイント➁ 必要な期間だけ利用できる制度へ
 今回の改正で、「一度始めると本人の判断能力が回復しない限り一生続く」という終身制が廃止され、本人のニーズや状況に合わせて柔軟に制度を終了・見直しできる仕組みに変わります。
 現行制度では、判断能力が回復しない限り制度を辞めることは事実上不可能でした。改正後は、制度を利用する動機となった具体的な課題(遺産分割協議、不動産売却、入院・施設入所契約など)が解決し、保護の必要性がなくなったと認められる場合、家庭裁判所が職権や家族等からの申立てにより、制度の利用を終了させることが可能になります。また、補助人(現行の後見人等に相当)には、「毎年1回一定の時が期」に、本人の状況などを家庭裁判所へ報告することを義務付けられていますが、この定期報告を受け、補助の要件がなくなったと認めるときには、家庭裁判所は職権で当該審判を取り消すことができるようになります。
 補助が終了しても本人の生活が立ち行かなくならないよう、親族による代行や日常生活自立支援事業、信託や任意代理契約、地域連携ネットワークによる見守りなど、福祉サービスや地域へスムーズに引き継ぐことが重視されますが、その後の支援体制の整備が課題です。

改正のポイント③ 意思決定支援の重視
 今回の見直しの背景には、「保護」と「自己決定」のバランスがあります。守ることだけを優先すると、本人の生活や希望が置き去りになることがあります。今後は、本人が何を望んでいるか、どこまで自分で決めたいか、どの支援が必要かを丁寧に確認しながら支援する方向性が強まっていきます。
 後見人の義務を定めていた旧民法第858条(成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮)は削除され、補助人の事務に関する規定として、新・民法第876条の11(補助開始の審判を受けた者の意向の尊重並びに心身の状態及び生活の常況の配慮)に規定されることになります。

第876条の11 補助人は、補助の事務を行うに当たっては、補助開始の審判を受けた者の心身の状態に応じて、その者に対し、その事務に関する情報の提
 供をしてその者のその事務に関する陳述を聴取することその他の適切な方法により、その事務に関する意向を把握するようにしなければならない。

旧法では「本人の意思を尊重し、…配慮しなければならない」という抽象的な記述にとどまり、実務上は「保護」の側面が強く出て、本人の意思が軽視されがちであるという課題がありました。新法では、意思を尊重するための具体的なプロセスが第1項として新設されました。「情報を伝え、話を聴き、本人の意向を把握して尊重する」という具体的な支援プロセスを伴う義務へと進化しています。

(2)この制度を理解するポイント

➀どんな人が対象になるのか
  補助   精神上の理由により事理を弁識する能力が不十分である者
       (定義)社会生活上、通常経験する事務について、その内容の理解や利害得失の検討が不十分または不
          適切になることがあるものの、「周囲の者からの支援などで補うことによって」自ら態度を決定
          することができる可能性がある人
  特定補助 精神上の理由により事理を弁識する能力を欠く常況にある者
       (定義)まれに判断や態度決定ができることがあっても、そのような可能性がないことが「ほとんどふ
          だんのありさま(普通のありさま)」である人
  ※「特定補助」の開始手続では、原則として家庭裁判所による「鑑定」が必要です。鑑定を省略する場合は医師
   の2名の診断書必要となりますが、医師2名の意見で医学的状態が証明されても、「具体的な法的保護の必要性」 
   が欠けている場合や、より制限の少ない通常の補助制度で対応可能な場合には、特定補助は開始されません。
   特定補助は原則として本人の同意を要件としませんが、「本人の意思の尊重」が重視されています。本人が同意
   能力(手続的な理解能力)を持ち、明確に制度利用を拒絶している場合には開始されません。

➁誰が開始申し立てができるのか
   現行制度と同様に、本人、配偶者、四親等内の親族(親、子、兄弟姉妹、祖父母、孫、叔父・叔母、いとこな
  ど)、未成年後見人および未成年後見監督人、検察官は、申立てを行うことができます。改正により、公正証書に
  よって本人があらかじめ指定した者、任意後見監督人(であった者)が加わります。

③補助開始に本人の同意がいるのか
   通常の「補助」開始における同意
  原則: 本人以外の者(親族や市町村長など)が補助開始を申し立てる場合には、本人の同意が必須の要件となり
     ます。
  例外: 本人が重度の認知症などで「意思を表示することができない場合」に限り、本人の同意がなくても家庭裁
     判所は補助を開始させることができます。本人が「拒否」している場合: 本人に同意能力(手続の意味を
     理解する能力)がある上で、明確に制度の利用を拒否している場合には、本人の意思に反して強制的に補
     助を開始することはできません。
  「特定補助」開始における同意
  ・現行制度の「後見」類型に相当する、判断能力を欠く常況にある人を対象とした「特定補助」の開始について
   は、本人の同意は不要です。
  ・これは、本人が合理的な判断をすることが極めて困難な状態(事理弁識能力を欠く常況)にあり、かつ、不利
   益な契約から本人を守るなどの「保護の強い必要性」が認められる場合に適用されるためです,。

④同意権、取消権はどう設計されるのか
   同意権・取消権の対象となる「重要な財産上の行為」のリスト(現行民法13条1項)が見直され、「預金又は貯
  金の預入又は払戻しの請求」が追加された「特定の行為」(新民法第9条第2項)のリストが規定されました。
   補助の同意権: 「特定の法律行為」について、補助人に同意権が付与されます。本人が補助人の同意を得ずに
          その行為をした場合、補助人はそれを取り消すことができます。補助の場合はリストの行為は
          選択制で、リスト以外の行為を追加することはできません。
   特定補助の場合:通常の補助のように個別に項目を選ぶのではなく、新民法第9条第2項各号に掲げる「特定
           の行為」について一律に取消権が付与されます(パッケージ型)。必要があるときは、リスト
           以外の特定の行為についても取り消すことができるよう追加で審判を行うことが可能です

(3)その他改正事項

➀後見人の交代
   現行制度では、後見人に不正や著しい不行跡などの明確な「落ち度」がない限り交代は困難でしたが、「本人の
  利益のため特に必要がある場合」という解任事由が新設されます。新設される「本人の利益のため特に必要があ
  る場合」による解任については、欠格事由とはしないこととされます
➁死後事務
  現行制度では、火葬・埋葬などの死後事務を行う権限は原則として「成年後見人」のみに認められていました。
 改正後は、制度が一元化されることに伴い、全ての「補助人」が家庭裁判所の許可を得て死後事務を行えるように
 なります。
③医療同意
  今回の改正では、後見人等(新制度の補助人)に「医療同意権」を付与する規律は見送られました。
④予備的任意後見受任者の選任
  予備的任意後見受任者とは、任意後見契約において、当初の受任者が死亡や病気、音信不通などの理由で事務を
 行えなくなった場合に備え、あらかじめ後任として定めておく者のことです。予備的任意後見受任者の選任は、公
 正証書での合意が必要です。
⑤任意後見監督人が必須でなくなる
  明らかに任意後見監督人による監督の必要がないと認める場合(例えば、任意後見人が精通した専門職の場合な
 ど)は、例外的に任意後見監督人を選任しないことができるようになります。任意後見人への報酬に加えて任意後
 見監督人への報酬という二重の負担を解消するためと言われています。代わりに家庭裁判所が任意後見人を直接監
 督する仕組み(任意後見開始の審判)が導入されます。
⑥任意後見と補助が併存できるようになる。
  現行法では、法定後見が開始されると任意後見契約は当然に終了するという規律がありましたが、改正法では、
 任意後見と法定後見(新制度の「補助」)の併存(併用)が認められます。このため、任意後見人と法定後見人(補
 助人)の権限が重複し、混乱が生じるおそれがあります。また二つの制度を併用する場合、それぞれの報酬が発生
 するため、本人の経済的負担が重くなるという問題があります
⑦現行の保佐、補助 新制度への切り替え可能
  現行の「後見」「保佐」「補助」を利用している方も新制度(新しい「補助」制度)へ切り替えることが可能で
 す。現行の「後見」や「保佐」から、新しい「補助」制度へ移行する申立てができます。現行の「補助」制度を利
 用している方については、施行日以降、自動的に新制度の「補助」を利用しているものとみなされることになりま
 す。

(4)まとめ

令和7年12月末日時点における、成年後見制度(成年後見・保佐・補助・任意後見)の利用者数は合計で259,901人で、うち成年後見の利用者数は180,828人で全体の7割を占めている。
 現行の「後見」類型には包括的な代理権が付与されるため、支援者や親族、あるいは取引の相手方にとって、個別に権限を確認・付与する手間が省け、事務を円滑に進めやすいという側面があります。
 そのため、本来は「補助」や「保佐」が適切な状態であっても、保護を厚くしようとする医師や周囲の「良かれと思って」という判断で、重い類型である「後見」が選ばれるケースも多くあります。
 また、「後見」類型は、鑑定が義務付けられていながら実際には殆ど行われていないという実態があります。
 新制度では、特定補助という特に重いケースに限定して鑑定を維持しつつ、「医師二人以上の意見」を聴き、裁判所が明らかに鑑定の必要がないと認める場合に、鑑定を省略できる扱いになります。改正法施行後はみだりに特定補助が利用されないよう期待したい。

福井の行政書士竹内倫自事務所