成年後見人と死後事務

1 被後見人死亡後の事務

 成年被後見人等(成年後見人、保佐人及び補助人)が亡くなった場合、成年後見人等の職務は終了します。死亡後の事務として、家裁への報告、管理の計算、相続人への財産の引継ぎが主な事務となります。
 本人が死亡後の成年被後見人等の事務
 ①家裁に死亡の報告をする。
 ②後見終了の登記の申請する。
    東京法務局に終了の登記申請を行います。
 ③家庭裁判所へ終了報告と報酬付与の審判申立をする。
   成年後見人等は,管理していた被後見人の財産について2か月以内に管理の計算をし、それを家庭に報告しな
  ければなりません。
 ④相続人への管理財産の引継ぎをする
   財産目録と収支計算書を相続人に交付し、管理していた財産を引継ぐ。引継ぎをする際は、引継書を作成す
  る。
 ⑤家庭裁判所に引継書を提出する。
 ⑥ぱあとなあ福井に終了報告をする。

 被後見人等が死亡した後は、上記のみが成年後見人等の職務で、被後見人死亡後の債務の弁済(入院費の支払
  い、家賃の支払いなど)は、相続財産として引継ぐのが原則です。しかし、親族がない場合や、親族と疎遠になっ
  ている場合など、病院や施設から元成年後見人に最後の入院費や利用料の催促がくるのが通常で、現実的には元
  成年後見人において対応せざるを得ないケースも多々あります。 では、この場合、元成年被後見人等はいかなる
  法的な根拠により処分行為が正当化されるのでしょうか。

2 死後事務の法的根拠

 その場合の法的根拠としては、「事務管理」や「応急処分義務」があります。

(1)応急処分義務 

 成年後見人は、被後見人との関係では、民法上に委任の関係に準ずるものと言え、後見人は後見事務を行うにあ たって、善管注意義務を負っていますが、その延長線上に応急善処義務があります。(874条による654 条準用)後見が終了した後においても、後見人の義務は一定の範囲で存続し、相続人に財産を引継がれるまでの間に、「急迫の事情」があれば、被後見人であった者のために必要な処分を行わなければないという義務です。ただし、「急迫の事情」の判断が、難しいという問題があります。
 
  民法874条が準用する民法654条 
  第654条(委任の終了後の処分)
   委任が終了した場合において、急迫の事情があるときは、受任者又はその相続人若しくは法定代理人は、委任

  者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければ
  らない。

(2)事務管理

 「応急処分義務」で対応できない場合は、「事務管理」として対応することもできます。事務管理は、①義務なくして他人の事務の管理を始めたこと、②他人のためにする意思があること、③事務の管理が本人の意思反することが明らかでないこと、④事務の管理が本人のために不利であることが明らかでないこと、が要件です。ただし、事務管理によっては、代理権は生せず、事務管理者が本人の代理人としてと契約しても、本人の追認がなければ無権代理行為となってしまい、損害賠償されてしまういリスクもあります。また、事務管理者には報酬請求権はありません。

  民法第697条(事務管理) 
  1 義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も

   本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。
  2 管理者は、本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することができるときは、その意思に従って事務

   管理をしなければならない。
  民法700条(管理者による事務管理の継続)
   管理者は、本人又はその相続人若しくは法定代理人が管理をすることができるに至るまで、事務管理を継続し

  なければなければならない。 ただし、事務管理の継続が本人の意思に反し、又は本人に不利であることが明ら
  かであるときは、この限りでない。

(3)民法873条の2による許可

 これまで、成年後見人が行うことができる死後事務の範囲が必ずしも明確でなく、上記の「事務管理」や「応急処分義務」で対応してきましたが、実務上対応に苦慮する場合がありました。そこで、「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」(平成28年10月13日施行)により民法が改正され、成年後見人については、成年被後見人の死亡後も、相続財産の保存に必要な行為、弁済期が到来した債務の弁済、火葬又は埋葬に関する契約の締結等といった一定の範囲の事務を行うことができることとされ、その要件が明確にされました。

  民法873条の2(成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限)
   成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反

  することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をする
  ことができる。ただし、第三号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
   一 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為
   二 相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済
   三 その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前二号に掲げる行為を

    除く。)
 
 ただし、法改正後も、従来の「応急処分義務」や「事務管理」に基づいて死後事務を行うことは可能で、この場合は家裁の許可を得る必要はありませんが、許可を得ずに行った行為は無権代理行為となってしまい、相続人が追認しなかった場合には、相続人から責任追及されるリスクがあります。したがって、家裁の許可を得ずに死後事務を行う場合は、「事務管理」又は「応急処分義務」の要件に該当するかどうかを慎重に判断する必要があります。保佐人、補助人については、民法873条の2の適用がないため、今まで通り、「事務管理」又は「応急処分義務」により対応するしかありません。

3 死後事務の対応方法

 死後事務については、相続人等との間に問題が生ずることはないか検討が必要です。
(1)遺体の引き取り
  遺体の引き取りは、当然相続人等が行うべきものです。したがって、成年後見人としては、まず遺族に連絡し、
 遺体の引き取りをお願いすることになりますが、実際は葬儀社が代行してくれます。
  被後見人に身寄りがなく火葬を行う人がいない場合又は判明しない場合は、死亡地の市長村長が火葬を行うこと
 になっています。(墓地、埋葬等に関する法律9条1項)市町村に対して対応を求めることになりますが、実務上
 は、市町村の対応が鈍いため、成年後見人が対応せざるを得ない場合もあります。この場合は、公衆衛生上の理由
 から応急処分義務によって正当化することになります。

  墓地、埋葬等に関する法律
  第9条 死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村長が、これを行わなけ

   ればならない。

(2)死亡届
  死亡届は亡くなってから7日以内にしなければなりません(戸籍法86条)。死亡届は親族が葬儀社が代行してく
 れます。親族がいれば名前を借りて行うことはできます。成年後見人等も死亡届を提出することができますが、届
 出義務はありません。死亡届を提出すると、本人の戸籍に届出人として氏名が記載されます。
(3)火葬
  成年後見人の場合は、家裁の許可を得て、火葬に関する契約を締結することができます。許可を得ないで行った
 場合は、無権代理行為となります。ただし、法改正後も、従来の「応急処分義務」や「事務管理」に基づいて死後
 事務を行うことは可能で、この場合には家裁の許可を得る必要はありません。
  保佐人、補助人は、民法873条の2の適用はないため、今まで通り、「事務管理」又は「応急処分義務」により対
 応することになります。
(4)残置物
  施設や病院の残置物、被後見人の衣類や所持品は、遺相続人等に引継ぐべきものです。相続人に連絡し、引き取
 りを依頼します。施設や病院はすぐにも引き取りを要請してきます。相続人がすぐに引き取れない場合は、応急的
 に成年後見人が管理しなければならないこともあるかもしれません。実際には、残置物は少ないと思います。相続
 人等が引き取らない場合は、相続人等の了解を得て処分します。
(5)葬儀
  葬儀に関する契約は民法873条の2の「火葬又は埋葬に関する契約」には含まれず許可の対象にはなりません。葬
 儀は、遺体の引き取りや火葬とは異なり、その実施が衛生上不可欠というわけでなく、法律上の義務でもないこ 
 と、宗派ややり方にさまざまな形があり、その実施や費用負担について、相続人との間でトラブルになる可能性が
 あるためです。ただし、いわゆる「直葬」として、通夜や告別式を行わない火葬のみの葬儀については、「火葬に関
 する契約」として、許可の対象とされています。
  成年後見人等に葬儀を行う義務はないため、葬儀を行う場合は「事務管理」により対応することになります。
(5)納骨
  成年後見人の場合は、納骨に関する契約は、火葬に関する契約に準じて、家裁の許可の対象になります。遺骨
 は、祭祀継承者に帰属するという判例があります。成年後見人等に納骨をする義務はありません。する場合は、「事
 務管理」により対応することになります。
(6)債務の支払い
  最後の入院費や施設利用料など。成年後見人は民法873条の2の第2号に基づいて支払いができます。保佐、補助
 の場合は「応急処分義務」を根拠に対応します。費用の支払いにより、遅延損害金の発生するリスクを防ぐという
 点から「応急処分義務」が根拠になります。

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