高齢化や家族の縮小、単身化が進み、家族に頼ることが難しい高齢者が増え、自分が亡くなった後の葬儀や納骨での手続きや役所の手続を第三者に委任する「死後事務委任契約」が、近年注目を集めています。
ところで、遺言書で死後事務を指定しておくことはできないのでしょうか。今回は、「死後事務委任契約」と「遺言」の違いについて説明します。
死後事務委任契約は「契約」
死後事務とは、①火葬や葬儀、埋葬に関すること、②死亡届や年金資格喪失届などの行政手続き、②入院していた病院や入所していた介護施設の料金精算や電気ガス水道の停止などの手続きのことを言います。
これらの事務を「委任」という形で第三者者に依頼する契約で「死後事務委任契約」と言います。死後事務委任契約は「契約」であるため、相手方との合意により成立します。
遺言による相続や遺贈は拒否することができ、必ずしも相続人や受遺者を拘束しませんが、死後事務委任「契約」は「契約」であるため相手方を拘束します。つまり、相手方は死後に委任内容を実現する義務を負います。義務を怠った場合は債務不履行責任や損害賠償責任を負います。
遺言は相手のない単独行為
遺言は人の最終の意思を表示し、その人の死後にその意思を実現させる制度です。遺言は、法律行為の一種ですが、相手方のない単独行為です。遺言は一定の方式を備えていれば、相手方の承諾なくして、成立すします。遺言できる事項は法定されており、法定されています。
遺言をすることができる事項は、主に以下のものがあります。
①相続分の指定、遺産分割方法の指定
②財産の遺贈
③配偶者居住権の設定
④遺言執行者の指定又は指定の委託
⑤子供を認知すること
⑥未成年後見人の指定
⑦相続人の廃除及び廃除の取り消し
⑧祭祀に関する承継者の指定
頼れる親族がいない場合に「死後事務委任契約」が必要
では、遺言に死後事務について記載することはできないのでしょうか。答えはノーです。遺言に法定事項以外の内容を記載することはできます。
いわゆる「付言事項」と言われるものですが、財産の配分を決める遺言書において、遺言者の「思い」や「希望」などを記載する際に使用されたりします。一般的にはそうした思いを知らせることで「争続」を防ぐ効果があるとされています。
附言事項には、基本的にどのような事でも書くことができます。自分の葬儀の方法や納骨などについても書くことができます。死後事務を行ってくれる家族がいる場合は、死後事務について遺言書で希望として書けば、希望通り実現してくれる可能性はあります。しかし、家族がいない方や家族の世話にはなりたくないといった方の場合は、第三者に依頼するしかないわけですから、法的拘束力を生じさせるには死後事務委任契約を締結するしかないということです。
死後事務を第三者に依頼したいと考えている方は、行政書士等の専門家に相談してみると良いでしょう。