葬儀費用を負担するのは誰

葬儀費用の負担者に決まりはない

 相続においては、被相続人のプラスの財産だけでなくマイナスの財産(債務)も相続人に引き継がれますが、葬儀費用は、被相続人が亡くなった後に発生する費用なので、被相続人の相続財産には含まれないとされています。
そうすると、葬儀費用は誰が負担すべきなのかということが問題となりますが、これについては、法律の規定はなく、社会的な慣習なども存在しません。 
 葬儀は、死者を弔うための宗教的儀式であり、儀式の在り方も多様で、自発的に行われるものであるため、法律上特に規定は定められていません。

喪主の負担とする説が有力

 葬儀費用を誰が負担するかについては、相続人負担説、相続財産負担説、喪主負担説などの学説・判例がありますが、葬儀の喪主が負担するとの説が一番有力とされています。東京地裁昭和61年1月28日判決は、葬儀費用は相続債務ではないこと、葬儀を実施するのが相続人であるとは限らないことを理由としています。

東京地裁昭和61年1月28日判決
 「葬式は、死者をとむらうために行われるのであるが、これを実施、挙行するのは、あくまでも、死者ではなく、遺族等の、死者に所縁ある者である。したがって、死者が生前に自已の葬式に関する債務を負担していた等特別な場合は除き、葬式費用をもつて、相続債務とみることは相当ではない。そして、必ずしも、相続人が葬式を実施するとは限らないし、他の者がその意思により、相続人を排除して行うこともある。また、相続人に葬式を実施する法的義務があるということもできない。したがって、葬式を行う者が常に相続人であるとして、他の者が相続人を排除して行った葬式についても、相続人であるという理由のみで、葬式費用は、当然に、相続人が負担すべきであると解することはできない。
 こうしてみると、葬式費用は、特段の事情がない限り、葬式を実施した者が負担するのが相当であるというべきである。そして、葬式を実施した者とは、葬式を主宰した者、すなわち、一般的には、喪主を指すというべきであるが、単に、遺族等の意向を受けて、喪主の席に座っただけの形式的なそれではなく、自己の責任と計算において、葬式を準備し、手配等して挙行した実質的な葬式主宰者を指すというのが自然であり、一般の社会観念にも合致するというべきである。したがって、喪主が右のように形式的なものにすぎない場合は、実質的な葬式主宰者が自己の債務として、葬式費用を負担するというべきである。すなわち、葬式の主宰者として、葬式を実施する場合、葬儀社等に対し、葬式に関する諸手続を依頼し、これに要する費用を交渉・決定し、かつ、これを負担する意思を表示するのは、右主宰者だからである。そうすると、特別の事情がない限り、主宰者が自らその債務を葬儀社等に対し、負担したものというべきであって、葬儀社等との間に、何らの債務負担行為をしていない者が特段の事情もなく、これを負担すると解することは、相当ではない。したがつて、葬式主宰者と他の者との間に、特別の合意があるとか、葬式主宰者が義務なくして他の者のために葬式を行った等の特段の事情がある場合は格別、そうでない限り、葬儀社等に対して、債務を負担した者が葬式費用を自らの債務として負担すべきこととなる。」

遺産分割の場面においてどのように対処したらいい?

 葬儀費用は相続財産には含まれないため遺産分割の対象ではありませんが、遺産分割協議で話し合うことは可能です。相続人の話し合いで、遺産から葬儀費用を支払って、残った財産を相続人で分けることにしても、問題はありません。
 葬儀費用の負担者は基本的には喪主であるとされていますが、必ずしも喪主が支払わなければならないと法律上の決っているわけではありません。慣習的には喪主が葬儀費用を負担しますが、遺族間の話し合いで葬儀の負担者を決めることもできます。
 葬儀費用は相続財産から支払うことで同意しても、葬儀費用の範囲が相続人同士で一致していないと、葬儀後に揉めることになります。葬儀費用の負担でトラブルを回避するためには、親族同士で事前に話し合いをしておくとよいでしょう。

行政書士・社会福祉士竹内倫自のホームページ