成年後見人と遺産分割協議

 私の知り合いの話です。その方の父方の叔母(Aさん、86歳)には子どもがなく、昨年夫が癌で亡くなり、一人暮らしになりました。身体は特に問題はなかったのですが、物忘れなど認知症とみられる症状がありました。
 夫の甥(Bさん)が近くに住んでいて、夫が亡くなった際は葬儀の世話などをしてくれ、その後も、介護サービス利用手続きなどをしてくれたそうです。
 夫の相続人は、Aさんと夫の兄の子CD,妹E(Bさんの母)の4人です。
 Bさんは、遺産を自分の母親など兄弟側に多く配分することを希望しており、Aさんも「夫の兄弟と平等に分けたい」と言っていました。そのため、Bさんは弁護士に依頼し、遺産分割協議書を作り、そのように分割しました。Bさんが取得した財産は4分の1でした。しかも、BさんはAさんと任意後見契約も締結していました。
 配偶者の法定相続分は4分の3です。兄弟姉妹の相続分は4分の1です。Aさんが取得した財産は4分の1です。具体的相続分が法定相続分とは逆になってしまいました。
 後から事情を知ったAさん側の甥姪などが、叔母には認知症があり、遺産分割協議は有効だったのか疑問だとし、別の弁護士に相談したが、既に遺産を分割してしまった後だったため、覆えすのは困難な状況とのこと。
 そんな中、Aさんは自宅で転倒、足を骨折し入院、退院後在宅での生活は困難になってしまい施設入所することにました。現在、法定後見人をつけるべく弁護士と相談しているとのことです。

被相続人が遺言書を残していない場合、通常、相続人全員で遺産分割協議をすることになります。遺産分割協議は法律行為なので、相続人の中に認知症などで判断能力が低下した人がおられる場合は成年後見人等を立てる必要があります。
 成年後見人であれば、財産管理について全般的な代理権を持っているため、遺産分割協議を本人に変わって行うことができます。成年後見人には原則として本人の法定相続分の確保が求められます。保佐人であれば、重要な財産上の行為について同意権がありますので、本人に不利益な遺産分割については取り消すことができます。補助人の場合であれば、家庭裁判所の審判により遺産分割協議に関する代理権又は同意権が補助人に付与されている場合に限り、補助人が本人に代わり、遺産分割協議を行う、あるいは同意を得ずに行った協議を取り消すことができます。
 後見人が選任されると、本人の相続分については、法定相続分を確保することが原則です。このケースでも遺産分割協議を行う前に後見人を選任しておくべきでした。

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