後見業務に関わっていると、被後見人の家族から「成年後見をやめることはできませんか」、「成年後見人を変えることはできませんか?」との質問をご家族から受けることがあります。
ご家族の立場からすると、以前のように本人の預金を自由に使うことができない、報酬が高いといった不満や不信感を抱くこともあるでしょう。
では、成年後見人は途中で交代できるのでしょうか?
結論から言うと、「できる場合もあるが、簡単ではない」というのが現実です。
成年後見人の交代は「家庭裁判所の判断」
成年後見人の交代は、「解任」というかたちで家庭裁判所に申し立てを行い、裁判所が判断します。
法第846条(後見人の解任)
後見人に不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は、後見監督人、被後見人若しくはその親族若しくは検察官の請求により又は職権で、これを解任することができる。
主に次のような場合に解任が認められる可能性があります。
① 不正行為がある場合
「不正な行為」とは、違法な行為または社会的に非難されるべき行為を意味し、主として成年後見人等が本人の財
産を横領したり、私的に流用する(背任)などの財産管理に関する不正がこれにあたります。
② 著しい不行跡
「著しい不行跡」とは、品行ないし素行がはなはだしく悪いことを意味し、その行状が本人の財産の管理に危険を
生じさせるなど、成年後見人等としての適格性の欠如を推認させる場合がこれにあたります。
③その他後見の任務に適しない事由があるとき
成年後見人等の権限乱用、管理失当(財産の管理方法が不適当であること)、任務怠慢などがある場合です。
後見人と「性格が合わない」とか「態度が気に入らない」といった主観的な理由だけでは足りないことに注意が必要です。
解任申立ては誰ができるのか
これらの事由により後見人等を解任しようとするときは、後見等監督人,本人(成年被後見人等)、本人の親族、検察官が家庭裁判所に解任を求める申立てをします。「ケアマネージャー」や「施設職員」など、福祉介護サービスの関係者では、申し立てはできません。
家庭裁判所は、申立てがあれば、解任事由の存否を審理し、解任の審判をし、これが確定したときに、解任の効力が生じます。
どうしても、解任を検討するなら、感情論ではなく「証拠」が重要になります。たとえば、通帳のコピー、面会記録、言動のメモ、医師や施設職員の意見こうした客観的資料を集めた上で、専門家に相談するのが最善です。
現場でよくある問題
私も後見人をしていてよく感じることに、どちらかというと本人の意思と言ううよりも支援者意向で成年後見制度の利用を誘導され、本人は制度のことをよくわかっていないとか、家族でも自由に本人の財産を管理・運用することができなくなることで、後見人に対する苦情が生じたりします。
成年後見人は辞任することもできる
成年後見人等には、本人の財産管理や身上保護に強力な権限が与えられているため勝手に辞任することはできませんが、正当な事由がある場合に限って家庭裁判所の許可を得て、辞任することができます。
民法第844条【後見人の辞任】
後見人は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。
この「正当な事由」とは、例えば➀仕事の都合などで遠隔地に転居して、後見等の事務を行えない場合、➁老齢、疾病などにより後見等の事務を続けることができない場合、③本人または親族等の間に不和が生じた場合などがあります。
本人または親族等の間に不和が生じ、どうしても関係を構築できない場合に後見人がやむを得ず辞任を選択することがあります。この場合、家庭裁判所は、本人、その親族その他の利害関係人の請求により又は職権で、成年後見人等を選任することなります。後見制度自体の利用をやめられるわけではありません。
大切なのは「誰のための後見か」
成年後見制度は、家族のためでも、後見人のためでもなく、本人の権利擁護を図るための制度です。
だからこそ、交代を考えるときも「本人のためになるのか?」という視点が何より重要になります。
「後見人を替えたい」と感じたときは、一度立ち止まって問題を整理し、本人にとってどうなのかを考えることから始めてみましょう。