遺産分割は、遺言がある場合とない場合とで、遺産分割方法が異なります。遺言があれば遺産分割協議をする必要がないため、基本的に揉めることはないですが、遺言がない場合は、相続人全員で遺産分割協議が必要です。遺産分割協議で誰が何をどれだけ受け取るのかを相続人同士で話し合わなければいけません。そして、全員の合意が必要です。1人でも納得しない人がいれば争いになります。
「兄弟は他人の始まり」という言葉がありますが、相続の現場では、仲の良かった兄弟姉妹が揉める事がよくあります。
両親のどちらかが生きている間は、親が重しになりトラブルは起きないのですが、両親とも亡くなると、相続をめぐってバトルを展開することは珍しくありません。
「長男は、大学へ行かせてもらったのに俺は行かせてもらえなかった。」、「二男は、家を立てるときローンの頭金を負担してをらっている。」、「寝たきりになってから介護していたのは、自分だ。」、、、などなど。
いざ遺産分割協議となると、そんな不平不満が噴出します。
気持ちのよいことではありませんが、人間として不自然な感情ではないと思いますが、兄弟姉妹のみで話合いをしていると、どうしても感情的になって協議が進まない、もめてしまうことが多いようです。兄弟姉妹の繋がりが相続をキッカケに切れてしまうことも珍しくありません。
相続で揉める原因は、家族ごとに事情が異なりますが傾向としては以下のようなものがあります。
1 特別受益
特別受益とは、相続人の中に、 ①被相続人から遺贈を受けた場合、 ②婚姻、養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた場合、相続開始のときに有した財産に贈与の額を加えたものを相続財産とみなして計算し、算出した相続分の額から、遺贈または贈与の額を控除し、その残額を相続分とする制度です。
具体的に例をもって考えてみましょう。
家族構成は、母は既に亡くなっていて、今回父が亡くなったとします。被相続人は、父です。相続人は、子供Aと子供Bだったとします。相続財産は、5,000万円とします。また、子供Aは、父から生前、500万円の贈与を受け取っていたとします。贈与が無ければ、5,000万円の相続財産の1/2の2,500万円ずつが法定相続分です。しかし、500万円の贈与があった場合は、贈与の500万円を相続財産の5,000万円に足し合わせます。その足し合わせた5,500万円をベースに法定相続分を計算していきます。なので、5,500万円の1/2で、2,750万円ずつが法定相続分となります。また、子供Aは既に500万円の贈与を受けているので、2,750万円から500万円を引いた2,250万円が相続分となるのです。
このように、贈与があると、その贈与の額を相続財産に足し合わせて考えるのが、特別受益です。
特別受益で揉めるパターンとしては、贈与を貰った、貰ってないとか、どこまで特別受益に含めるかなどです。これらを原因として、相続争いに発展します。
2 寄与分
寄与分は、被相続人の財産の維持又は増加に寄与した相続人がいる場合、その相続人に対し、寄与に応じた額の財産を取得させ、相続人間の実質衡平を図るための制度です。被相続人の財産の維持又は増加に寄与とはどういう場合に該当するかというと、被相続人の介護をしたり、被相続人の仕事を手伝った場合です。被相続人の介護や仕事に貢献した人に、寄与分として、多くの相続財産を取得させようというものです。
ただ、介護の場合は、介護のプロを雇った場合はいくらなのかという考え方になるので、大きな金額にはならない事が多いです。また、被相続人の仕事を手伝った人が手伝った報酬として、給料をもらっているようなら、給料で還元されているので、寄与分は発生しません。あくまでも、無償で手伝った場合などに、寄与分が発生します。
この寄与分は、介護や仕事を手伝った人の気持ちと、寄与分が認められる額には、乖離が大きい場合が多いです。これが揉める原因となります。
3 財産の使い込み
高齢になり、入院した又は入所したという場合、同居している子どもがいれば、その子どもにお金の管理を任せるということは多いと思います。
しかし、その結果、何が起きるのか。
いくら現金や預貯金があるのか、どこに財産があるのかといった相続財産に関する情報について、同じ子どもでも知っている者と知らない者に分かれてしまうことになります。
このような状況下では、財産内容を知らない側の子どもはどうしても疑心暗鬼にならざるを得ません。他に隠している財産があるんじゃないか、親のお金をコッソリ使い込んでいるんじゃないか、と財産管理をしていた人に対する疑いが生じ、トラブルに発展していってしまうことになります。
本人の生活費とお金を管理している子やその家族の生活費が混ざってしまうというのもありがちなパターンです。お金の管理が杜撰だとトラブルになりやすいといえるでしょう。
4 不動産の分割
土地や建物などの不動産が他の相続財産と大きく異なるのが、分割のしにくさです。
現金や預貯金あれば、法定相続分や遺産分割協議の合意にもとづいて、すぐ分割することができますが、不動産はそうはいきません。
例えば、亡くなった人(被相続人)の配偶者と被相続人の兄弟が相続人になり、めぼしい相続財産は配偶者が被相続人と住んでいた自宅のみだったとしましょう。
この場合、法定相続分は配偶者が4分の3、兄弟が4分の1(兄弟が複数いれば4分の1をさらに等分)となり、配偶者が住んでいる自宅の扱いが問題になります。自宅を売却して金銭で分けると配偶者の生活に影響がありますし、かといって自宅を配偶者と兄弟で共有とするのも問題を余計にややこしくするだけです。
そこでよく利用されるのが、「代償分割」という方法です。
「代償分割」では、一部の相続人が不動産(今の例では配偶者が自宅)を相続し、他の相続人にはその相続分に見合った金銭(代償金)を渡します。これなら不動産を売却することや共有にすることを避けられます。
ただし、不動産を相続する相続人に、一括で支払うにしろ分割払いにするにしろ、資金力が必要となります。もし、代償金を支払う余裕がなければ、そもそも代償分割は利用できません。
5 不動産の評価
不動産は、現金や預貯金などと比べて分割がしにくいだけでなく、そもそも評価が難しいという特徴があります。
相続税の計算上、土地については路線価方式もしくは倍率方式で評価し、家屋については固定資産税評価額をそのまま使用するというのが基本です。
しかし、路線価による評価額は通常、市場で取引される実勢価格より低くなることが多いのです。
一方、遺産分割協議における不動産の評価方法に特に決まりはありません。相続税の評価額をそのまま遺産分割協議の前提とすることもできますし、市場で取引される実勢価格を前提にしてもかまいません。そこは、相続人同士の話し合い次第です。
しかし、不動産を相続する相続人と不動産以外の財産を相続する相続人がいる場合、不動産を相続する相続人にとっては、不動産の評価額が低いほうが有利です。
例えば、親が亡くなり相続人が長男と次男2人のケース(法定相続分は2分の1ずつ)で、親が長男一家と同居していた自宅(相続税評価額で5000万円)と預貯金(5000万円)が相続財産だとしましょう。
この場合、相続税の計算上、相続財産の評価額は1億円となり、遺産分割協議でもこれを前提にすれば、長男は自宅(5000万円)を、次男は預貯金(5000万円)を相続すればよいことになります。
しかし、自宅の実勢価格が6000万円だとするとどうでしょう。相続財産は1億1000万円(法定相続分は5500万円ずつ)となり、次男は長男に対して代償金500万円を要求できることになります。
遺産分割協議において不動産の評価額をどうするかで揉めた場合、家庭裁判所に調停を申し立て、それでも決着がつかなければ審判に委ねることになります。
家庭裁判所は不動産鑑定士に鑑定を依頼したり、不動産業者による簡易査定書で代用したりすることが多いようですが、そうなると時間もコストもかかり、親族関係にも大きな影響が出ます。