
過去に親や祖父母から財産の贈与を受けた際、贈与税の申告をしておらず、贈与税の時効について気になっている方がいらっしゃるかもしれません。贈与税の申告と納税には期限がありますが、現金預金の贈与の時効はほとんど成立しないということをご存じでしょうか。法律の上時効はあるのですが、実務上ほとんど成立しないという意味です。
1 贈与税の時効
贈与税が課税されるかどうかは、1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与の合計額が贈与税の基礎
控除である110万円を超えるか超えないかで判断します。
贈与税の申告や納税は、贈与を受けた人が、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日の間に贈与を受けた
人の住所地を管轄している税務署に申告書や必要書類を提出する必要があります。
贈与税の時効は原則として6年ですが、贈与があったことを隠すなどの不正行為があった場合は7年に延長され
ます。時効の起算日は、贈与税の申告期限の翌日(贈与を受けた翌年の3月16日)からカウントされます。
2 現預金の贈与の時効は成立しない。
税務署は、国民の現預金に関する贈与を逐一調査をしているわけではありませんし、到底把握することはできま
せん。贈与をした人や贈与を受けた人が誰にも言わずに黙っていたら、税務署や他の第三者は贈与が行われたこと
を知らないままです。
しかし、黙っているだけで時効が成立して贈与税をを払わなくてもよくなるんでしたら、親は自分の財産を相続
税の基礎控除以下に減らすまで贈与をすればいいということになってしまいます。
ですので、税務署は贈与者がなくなった時に、亡くなった方やその家族の間の贈与について調査を行います。こ
の時に無申告の贈与が発覚します。
例えば、父親から息子に500万円贈与し、息子は贈与税の申告を行うことなく贈与税の申告期限から8年後父
親が亡くなったとします。そして相続税の調査時に税務署が過去の贈与を把握したとしましょう。贈与から8年が
経過しているため、贈与税の時効が成立してると思われるかもしれませんが、息子が贈与税の申告をしていないと
いうことは、贈与ではなく息子が父親からお金を預かっただけと税務署は解釈します。そして預かったお金は10
年経とうが20年経とうがお金を預けた人のものですからこの500万円は亡くなった親の財産として計上してくだ
さいと言ってきます。
この場合息子がすでにお金を使ってしまっていたとしても、預り金500万円として相続財産に計上することにな
ります。
調査時点においてすでに贈与から7年以上が経っていれば税務省は過去に行われた贈与は成立していないと主張
して贈与が行われた財産に対して相続税を課税し、逆に調査時において贈与から7年が経っていなければ贈与税の
無申告を指摘し、贈与税とペナルティとして無申告加算税と延滞税を課税します。
ですから現預金の贈与の時効というのは存在しないのも同然だということです。
3 贈与税の無申告がばれるケース
贈与税の無申告が税務署に発見されるのは、以下の場合ですが、ほとんどの場合が相続税の税務調査のときです。
➀相続税の税務調査
税務署は相続税の申告書をもとに、被相続人と取引のあった金融機関に対し、相続人やその他家族との間における預金の動きを調査し、その過程で名義預金や贈与が発覚することが多いです。贈与された財産は、実質的には贈与者のものであり、受贈者の名義を借りただけと判断されされ、そもそも贈与ではないため時効は成立しません。
➁不動産の登記
不動産を売買、贈与すると、不動産登記簿に登記されます。この登記情報は法務局から税務署に定期的に通知されます。この情報から、不動産購入の資金の出所について税務署からのお尋ね文書が送られてきて、贈与税の無申告が発覚することがあります。
③生命保険金の支払
生命保険会社は、満期保険金、死亡保険金、解約返戻金等の一時金や年金を支払う場合、一定の基準に該当した支払いについて「支払調書」を作成し、 生命保険会社が所在する所轄の税務署に提出することが税法により定められています。そのため、親が子の名義で保険に加入し、保険料を支払っていた。満期金を子が受け取ったといった場合、保険料負担者=親、受取人=子と見なされて、贈与が認定されることがあります。
④金地金やプラチナを売却したとき
金・プラチナの地金を一度に200万円以上売却すると支払った業者は税務署に支払調書を提出する義務があります。提出した支払調書により贈与が発覚することもあります。
⑤通報、密告
相続争いや離婚トラブルなどで、家族が「贈与の事実」を指摘することもあります。たとえば、親の相続で長男だけ多く生前贈与を受けていた、母が生前に不公平な支援をしていた、といった通報、密告があると、税務署が調査することもあります。
4 贈与契約書があってもダメ
贈与は「あげます」「もらいます」という合意で成立(民法549条)しますから、贈与契約書があれば、贈与契約そのものは有効に成立しています。したがって、贈与したという民法上の事実は確定します。
しかし、贈与税の時効を成立させるための証拠にはなりません。時効が進むのは、申告し税務署が知った時点からとなります。贈与税の申告をしていない限り、税務署は贈与があったことを知るすべがありませんから、贈与自体が成立していないと判断し、時効が認められないことがあります。税務署は贈与契約書があるかどうかではなく、その贈与を税務署が把握していたかどうかを重視します。
5 申告漏れのペナルティ
贈与税の申告漏れが発覚した場合、本来の贈与税に加えて以下のペナルティが課されます。
➀延滞税
納税が期限に遅れた場合に課される税金です。
➁過少申告加算税
申告した税額が少なかった場合に課される税金です。
③無申告加算税
申告期限までに申告しなかった場合に課される税金です。税務署の指摘前に自主的に申告すれば税率が軽減され
ます。
④重加算税
財産を隠蔽したり、偽ったりする悪質な行為があった場合に課される税金で、無申告加算税や過少申告加算税に
代わって課されます。
贈与税の時効成立を期待して申告を怠ることは、犯罪行為とみなされ、高額なペナルティを課される可能性があ
るため、適切な申告を行うことが重要です。
4 まとめ
生前の現金預金の動きから贈与が税務署に把握されることは少なく、ほとんどの場合が贈与者が亡くなったあとの相続税の税務調査のときに発覚します。
贈与税には時効はありますが、無申告だと時効が進みません。税務署が贈与を知らない限り、時効のカウントが始まらないからです。
したがって、時効が完成する前に税務署に見つかれば贈与税、時効が完成した後であれば相続税で課税されることが多いというのが実態です。時効が成立すると言えるのは、税務署が5年以上一切気づかず、調査もしていない場合に限られます。