相続人不存在の場合の財産管理

1 増える相続財産管理人選任事件

 少子高齢化や単身者の増加に伴い、相続人がいないことによる財産管理事件の数は、増加傾向にあります。最高裁判所の司法統計年報によると、令和2年(2020年)の相続人不分明による相続財産管理人選任事件の新受件数は、23,617件で、10年前(平成22年、2010年)に比べると1.6倍増えています。近年、相続放棄をする人が増えているのも、相続財産管理事件が増加している一因でしょう。

2 相続人不存在の場合の相続財産管理 

 亡くなった人に相続人がいない場合や、いるかどうかが定かでない場合には、相続財産は法人となります。(民法第951条)相続人が明らかでない場合、相続財産の帰属先があるのかどうかも不明であることから、無主物の状態となることを避けるために、民法は相続財産そのものを法人と擬制しています。相続財産法人は、相続人のあることが明らかでない相続財産について、法律上当然に成立します。

3 相続財産管理人とは

 この相続財産法人を管理する者が相続財産管理人です。家庭裁判所は、利害関係人等からの申立てにより、相続財産管理人を選任します。相続財産管理人は相続財産の調査、管理及び処分等を行い、残余財産を国庫へ帰属させる役割をもっています。管理人の調査費用、報酬等は相続財産の中から支払われます。相続財産管理人は、一般的には弁護士が選任されます。

4 相続財産管理人の選任の必要性

 亡くなった人に相続人となる人がいない場合、亡くなった人に相続人となる人がいても、全員相続を放棄してしまった場合 には、相続財産を管理する者が存在しなくなります。そうなると、相続債権者(被相続人の債権者)に弁済したり、受遺者(遺贈(遺言による贈与)を受けた人)に遺言内容を履行したり、といったことができなくなってしまいます。

そこで、このような場合には、家庭裁判所に相続財産管理人を選任してもらい、相続財産管理人に相続財産の調査・管理、換価などを行わせ、相続財産からの弁済の確保をはかるのです。

5 相続財産管理人の選任の要件

家庭裁判所に相続財産管理人を選任してもらうためには、次の事項をすべて満たす必要があります。

 (1)相続が開始したこと
 (2)相続人がいるかどうか明らかでないこと(相続人がいないことが明らかな場合、相続人となる人が全員相続
を放棄してしまった場合も含む)
 (3)相続財産(遺産)が存在すること
 (4)利害関係人(相続債権者、受遺者、特別縁故者など)または検察官から、家庭裁判所に相続財産管理人の選
   任の申立てがあること

6 相続財産管理人の選任の手続

相続財産管理人の選任されたあとの手続の流れ
(1)申立て
   相続財産管理人の選任審判申立書を作成し、戸籍等の必要書類をそろえて、家庭裁判所に提出します。
(2)審理
   家庭裁判所は、提出された書類に基づき、上記の「相続財産管理人の選任の要件」を満たしているかどうかを
  確認します。場合によっては、申立人に追加の書類提出や補足説明を求めたり、関係官署に対する照会などによ
  り調査したりします。
(3)審判
   家庭裁判所は、審理の結果、上記の「相続財産管理人の選任の要件」を満たしていると認めれば、相続財産管
  理人を選任する審判(決定)を下します。他方、相続財産管理人の選任の要件を満たしていないと認めたとき
  は、申立てを却下する審判を下します。
   ※相続財産の中から相続財産管理人の報酬を確保できるかどうか不明の場合は、相続財産管理人の報酬予定額
   を家庭裁判所に予納金として納付する必要があります。

7 選任後の手続

相続財産管理人が選任されたあとの手続の流れは、次のとおりです。
(1)相続財産管理人の選任の公告
   家庭裁判所は、相続財産管理人を選任したあと、速やかに、相続財産管理人を選任した旨の公告を、官報に掲
  載するなどの方法により行います。
(2)相続財産の調査・管理
   相続財産管理人は、相続財産を調査し、財産目録を作成します。また、不動産の登記を「亡○○○○相続財
  産」名義に変更する、預貯金を解約して相続財産管理人名義の口座に一本化する、債権を回収するなど、相続財
  産の管理を行います。
(3)相続債権者・受遺者に対する請求申出の公告・催告
   家庭裁判所が相続財産管理人の選任の公告をしたあと、2か月が経過し、その間に相続人があらわれなかった
  場合、相続財産管理人は、すべての相続債権者(被相続人の債権者)および受遺者(遺贈(遺言による贈与)を
  受けた人)に対し、2か月以上の一定の期間内に請求の申出(債権の届出)をするように、官報に公告を出しま
  す。
   また、この公告とは別に、存在が判明している相続債権者および受遺者がいる場合は、同じ内容の催告(通
  知)を個別に送付します。
(4)相続債権者・受遺者に対する弁済
   相続財産管理人は、届出のあった債権者及び受遺者に対し、それぞれの債権額の割合に応じて、弁済を行いま
  す。
   前述の期間内に届け出なかった債権者がいる場合、その債権者は、上記の弁済の結果残った財産についての
  み、弁済を受けることができます(残らなければ、配当を受けられません)。
   弁済に必要な金銭がない場合、相続財産管理人は、不動産などの資産を競売・売却などにより換価し、資金を
  捻出します。相続財産管理人が不動産を売却するには家庭裁判所の許可が必要です。
(5)相続人捜索の公告
   相続債権者・受遺者に対する請求申出の公告・催告のあと、届出期間満了後もなお、相続人がいることが明ら
  かでない場合、相続財産管理人は家庭裁判所に対し、相続人捜索の公告(相続人がいる場合は申し出るように、
  官報に公告を出すこと)を出すよう請求します。
   家庭裁判所は、相続財産管理人の請求を受けて、相続人がいる場合は、6か月以上の一定の期間内に申し出る
  ように、官報に公告を出します。この期間内に相続人・受遺者であることの申出がない場合、相続人がいない
  ことが確定します。
(6)特別縁故者に対する相続財産分与
   相続人がいないことが確定してから3か月以内に、特別縁故者(亡くなった人と特別の縁故のあった者)から
  相続財産(遺産)の分与を求める申立てがあった場合、相続財産管理人は、特別縁故者に対する相続財産分与の
  手続を行います。
(7)相続財産管理人に対する報酬付与
   相続財産管理人は、管理事務終了後に、家庭裁判所に対し、報酬付与の申立てをします。
   家庭裁判所は、相続財産の種類・額、管理期間、管理の難易度、訴訟・調停などの有無・成果、残った相続財
  産の有無・額、相続財産管理人の職業などを考慮して、報酬額を決定します。
   相続財産管理人は、 家庭裁判所が決定した報酬額を、相続財産あるいは予納金(報酬予定額として、相続財産
  管理人の選任申立てのときに申立人が納めた金銭)の中から受け取ります。
(8)残余財産の国庫帰属
   なおも相続財産が残っている場合、残った相続財産は、法律上、国庫に帰属するものとされます。この場合、
  相続財産管理人は、残った相続財産を国に引き渡す手続を行います。
(9)管理終了報告
   以上で相続財産管理人の業務は終了です。相続財産管理人は、家庭裁判所に対し、管理終了報告書を提出し、
  家庭裁判所の職権で、相続財産管理人選任処分の取り消しの審判を受けることにより手続は完了します。

行政書士・社会福祉士竹内倫自事務所のホームページ