生前贈与にかかる贈与税

(1)贈与税とは

 相続税は亡くなられた方から財産を引き継いだ時に課税され、贈与税はご健在の方から財産を譲り受けた時に課税されます。贈与税は、個人から贈与により財産を取得した場合に、取得した方に課される税です。贈与税は、生前に贈与することで相続税の課税を逃れようとする行為を防ぐという目的があり、その意味で相続税を補完する役割を果たしています。
 贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力が生じます(民法第549条)。したがって、相手が受諾しない贈与は無効です。例えば、親が独断で子供名義の口座に入金しても贈与にはなりません。いわゆる名義預金となり、親の財産に属したままです。贈与契約は口頭でも成立しますが、贈与があったことを証明するため、贈与契約書を作成しておくこと、銀行振込などでお金の流れを記録しておくことをお勧めします。

(2)贈与税の課税方法

 贈与税は個人から財産の贈与を受けた場合にかかりますが、その課税方法には、「暦年課税」と「相続時精算課税」の二つがあります。

①毎年110万円の非課税枠がある「暦年課税制度」
 「暦年課税」は1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の価額から基礎控除額(110万円)を差し引いたものに対して課税されます。1年間に贈与を受けた金額が110万円以下の場合には贈与税はかかりません。110万円を超えた場合には申告が必要です。贈与者が亡くなる前3年以内に相続人に贈与された財産は、死亡時に被相続人の相続財産に加算され、相続税が加算されます。

 令和5年度税制改正で、相続税の計算に組み入れる生前贈与加算の対象を、3年間から7年間に延長することとさ れました。この改正は2024年(令和6年)1月1日以降に贈与により取得する財産にかかる相続税について適用され、段階的に生前贈与加算の期間が延びます。最終的には2031年(令和13年)1月1日以降に発生する相続税から生前贈与加算の期間は7年になります。
 贈与税率は、贈与者と受贈者との続柄や受贈者の年齢に応じて、「一般税率」と「特例税率」に区分されています。

②一生涯に贈与者ごとに2,500万円まで特別控除額がある「相続時精算課税制度」
 贈与税は、その年に受けた贈与財産の合計額から基礎控除額の110万円を控除した金額を課税対象として、税金を計算します。しかし、「相続時精算課税」の制度を選択しますと、基礎控除110万円を控除して計算する方法とは違う方法で贈与税額を計算します。相続時精算課税制度は、60歳以上の父母や祖父母から20歳(令和4年4月1日以降は18歳)以上の子や孫に贈与する場合、累計2,500万円までは贈与税がかからないという制度です。累計2,500万円を超えた部分については、一律20%の贈与税がかかります。     
 相続時には、相続時精算課税制度の適用を受けた贈与の価額を相続財産の価額に加算して相続税を計算し、それまでに納めた贈与税額は相続税額から控除されることとになります。この制度を利用することで、贈与税の負担がなく、または少ない負担で生前に大きな財産を子や孫に移転できるのがメリットです。ただし、いったん相続時精算課税を選択すると、その後の贈与については暦年課税に変更することができなくなります。
 令和5年度の税制改正において相続時精算課税制度に年間110万円の基礎控除が創設されます。現行の制度は累計2,500万円(特別控除)まで贈与税がかかりませんが、今回の改正により特別控除とは別に年間110万円まで基礎控除が認められます。そのため、年間110万円以下の贈与であれば贈与税がかからず、かつ、累計2500万円の特別控除に含める必要がなくな利用しやすくなりました。
 

(2)贈与税の課税対象とならない財産

 ①法人からの贈与により取得した財産
  贈与税は個人から財産を贈与により取得した場合にかかる税金であり、法人から財産を贈与により取得した場合
 には贈与税ではなく所得税がかかります。
 ②夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認めら
  れるもの
 ・生活費とは、その人にとって通常の日常生活に必要な費用をいい、治療費、養育費その他これらに準ずるものを
  含みます。
 ・教育費とは、被扶養者の教育上通常必要と認められる学費や教材費、文具費などをいい、義務教育費に限らな
  い。
 ・非課税となる生活費又は教育費は、必要な都度直接これらの用に充てるために贈与された財産をいう。
  ・婚姻に当たり親から婚姻後の生活を営むために、家具、寝具、家電製品等の通常の日常生活を営むのに必要な家
  具什器等の贈与を受けた場合は課税対象とならない。
  ・結婚式、披露宴の費用は、その内容、招待客との関係・人数や地域の慣習等の事情に応じ、その費用を負担すべ
  き者それぞれが、その費用を分担している場合には、贈与にあたらない。
  ・出産にあたって親から検査・検診、分娩・入院に要する費用について贈与を受けた場合、課税対象とはならな
  い。
 ③宗教、慈善、学術その他公益を目的とする事業を行う一定の者が取得した財産で、その公益を目的とする事業に
  使われることが確実なもの
 ④奨学金の支給を目的とする特定公益信託や財務大臣の指定した特定公益信託から交付される金品で一定の要件に
  当てはまるもの
 ⑤地方公共団体の条例によって、精神や身体に障害のある人またはその人を扶養する人が心身障害者共済制度に基
  づいて支給される給付金を受ける権利
 ⑥公職選挙法の適用を受ける選挙における公職の候補者が選挙運動に関し取得した金品その他の財産上の利益で、
  公職選挙法の規定による報告がなされたもの
 ⑦特定障害者扶養信託契約に基づく信託受益権
  国内に居住する特定障害者(特別障害者または特別障害者以外で精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く
  常況にあるなどその他の精神に障害がある者として一定の要件に当てはまる人)が特定障害者扶養信託契約に基
  づいて信託受益権を取得した場合には、その信託の際に「障害者非課税信託申告書」を信託会社などの営業所を
  経由して特定障害者の納税地の所轄税務署長に提出することにより、信託受益権の価額(信託財産の価額)のう
  ち、6,000万円(特別障害者以外の者は3,000万円)までの金額に相当する部分については贈与税がかかりませ
  ん。
 ⑧個人から受ける香典、花輪代、年末年始の贈答、祝物または見舞いなどのための金品で、社会通念上相当と認め
  られるもの
 ⑨相続や遺贈により財産を取得した人が、相続があった年に被相続人から贈与により取得した財産

(3)贈与税の非課税特例

①配偶者への自宅(居住用不動産)の贈与は、2,000万円まで非課税
②子どもなどへの住宅購入資金の贈与は、一定額まで非課税
 親や祖父母から、20歳以上の子や孫に、住宅購入や増改築のための資金を贈与したとき、一定額まで贈与税が非課税になる制度
③子どもなどへの結婚・子育て資金は、1,000万円まで非課税
・親や祖父母から、20歳以上50歳未満の子や孫に、結婚や子育てのための資金を贈与したとき、1,000万円まで贈与
 税が非課税になる制度
・金融機関との一定の契約に基づき「結婚・子育て資金口座」を開設し、金融機関を経由して「結婚・子育て資金非
 課税申告書」を税務署に届け出る必要があります
④孫などへの教育資金は、1,500万円まで非課税
・親や祖父母から、30歳未満の子や孫に、教育資金を贈与したとき、1,500万円まで贈与税が非課税になる制度
・金融機関との一定の契約に基づき「教育資金口座」を開設し、金融機関を経由して「教育資金非課税申告書」を税
 務署に届け出る必要があります。

(4)贈与税の税率

 贈与税の税率には、直系尊属(父母または祖父母)から、その年の1月1日に18歳(注)以上の子や孫への贈与(特例贈与財産)に適用される特例税率と、それ以外の贈与(一般贈与財産)に適用される一般税率とがあります。
(注)「18歳」とあるのは、令和4年3月31日以前の贈与については「20歳」となります。
 ①特例税率(特例贈与財産用)
  この税率表は、財産の贈与を受けた年の1月1日現在において18歳(注)以上の子や孫が父母または祖父母から贈
 与を受けた場合に、この計算方法となります。
   (例)贈与財産の価額が500万円の場合
      基礎控除後の課税価格 500万円 - 110万円 = 390万円
      贈与税額の計算 390万円 × 15% - 10万円 = 48.5万円
 ②一般税率(一般贈与財産用)
  この税率表は、「特例贈与財産用」に該当しない場合の贈与税の計算に使用します。
   ・直系尊属以外の親族(夫、夫の父や兄弟など)や他人から贈与を受けた場合
   ・直系尊属から贈与を受けたが、受贈者の年齢が財産の贈与を受けた年の1月1日現在において18歳(注)未満  
    の子や孫の場合
   (例)贈与財産の価額が500万円の場合
     基礎控除後の課税価格 500万円 - 110万円 = 390万円
     贈与税額の計算 390万円 × 20% - 25万円 = 53万円

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