1 そもそも相続とは
「相続」とは、ある人が死亡したときにその人の財産(すべての財産上の権利や義務)を、特定の人が引き継ぐことをいいます。
私有財産制を採用している社会においては、人が死亡した際には、その財産を誰かに継承させる必要があります。さもないと、その人が亡くなると所有者を失い無主物となってしまいます。民法では、所有者のない不動産は国庫に帰属する、無主の動産は、先に占有した者が所有権を取得するとしています。
亡くなった人の財産が国に帰属するとなると、私有財産制と矛盾するため、民法では配偶者と子どもといった一定の親族関係にあった者が引継ぐルールになっています。
民法では、亡くなった人を「被相続人」、財産を継承する人を「相続人」といいます。
2 相続はいつ始まる?
相続は、人の死亡によって開始します。つまり、被相続人の死亡という事実があれば当然に開始し、被相続人の死亡を相続人が知っていたかどうかを問わず、相続人は被相続人の財産上の権利義務を当然に承継することとなります。
相続人が複数人いる場合は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継し、相続財産は共同相続人間の共有となります。この共有状態を脱し、具体的な配分を確定させるためには,遺産分割を行う必要があります。被相続人は遺言によって遺産分割方法を指定することもできます。この場合は遺産分割協議を行うことを要しません。
3 相続制度の根拠
では、なぜ、亡くなった人の財産を配偶者と子どもといった一定の親族に相続させるのでしょうか,
相続の根拠については、さまざまな学説があるようですが、以下の3つにまとめられるようです。(内田貴『民法Ⅳ』P326)
①遺産形成に貢献した者への潜在的持分の清算
故人と共同生活をしていた妻や子などが、共同生活を通じて故人の財産の形成に貢献したことに対する清算の意味でその一部を受けるのが相続であるとする考え方です。離婚に伴う財産分与と似た考え方です。
②遺族の生活保障
遺族のうちには配偶者や子供など,被相続人に依存して生活しているという人もいるでしょう。そうした遺族が被相続人の死亡によって路頭に迷うようなことがないように、その生活権を保障する必要性があるという考え方です。
③取引の安全の確保
ある人の死亡によって、その財産に関する権利がなくなってしまったり、逆に債務もなくなってしまったりすると、それを信頼して取引をしていた人や債権者が大きな損失を受ける可能性があります。そこで、相続人らに被相続人の権利義務を承継させることによって、財産や債務がなくなってしまわないようにして,第三者に損失が生じるのを防止し、取引の安全を図るためにあるという考え方です。