1 家族信託は節税対策になるか?
家族信託は、自分が持っている財産を、信頼できる家族に託して、自分の代わりに管理運用してもらう仕組み です。
家族信託には、財産を預ける立場の人(委託者)、財産を預かって管理運用する立場の人(受託者)、財産から得られる収益を受け取る立場の人(受益者)の3者が存在します。委託者と受益者は同じ人にすることができ、税制上の理由から、ほとんどの場合は、委託者=受益者(自益信託)とします。委託者と受益者の同じ家族信託には贈与税が課税されないからです。
一番多い事例は、親が委託者兼受益者となり、子どもを受託者として信託契約をするケース です。
相続税については、家族信託契約をしたからといって相続税の課税対象財産から外れるわけではないため、相続税対策にはならないと言われます。信託された財産は便宜上、受託者に「所有権」が移転しますが、実質利益を受けるのは「受益権」を有する受益者です。受益者が亡くなると、 受益権はみなし相続財産として相続税の課税対象となります。
以上のように、家族信託に直接的な節税効果はありませんが、委託者兼受益者とすれば、贈与税がかからずに信託財産の管理を家族に託すことができるというメリットがあります。委託者が認知症になった後も、受託者である家族が管理し、相続税対策を行うことができるため間接的な節税効果は得られます。さらに、二次相続まで含めた相続対策の一環として活用することができます。
この記事では、家族信託をした場合に発生する税金についてご説明しています。
2 家族信託にかかる税金
(1)委託者に課される税金
原則、委託者に課される税金はありません。
(2)受託者に課される税金
家族信託では、受託者は信託財産の管理を請け負っているだけで実質的な所有権は持っていませんので基本的に
は課税されることはありません。
ただし、信託財産が不動産の場合、登録免許税(信託による所有権移転登記/固定資産評価額×0.4%)、固定資産
税は受託者負担となります。ただし、信託財産の管理費用として、信託財産から拠出することが認められており、
実質的には受益者が負担する形になります。
(3)委託者=受益者(自益信託)の場合の税金
この場合は、受益者として納税する新たな税金はありません。実体としては財産が移転されないため贈与税や不
動産所得税が課税されません。委託者が死亡すると受益権は相続財産として相続税の対象財産となります。
(4)委託者≠受益者(他益信託)の場合の税金
この場合は、信託財産の実質的な所有権は受益者に移るため、以下の税金が課されます。
①贈与税
委託者が生前に、委託者≠受益者とする家族信託契約が成立した際は、委託者から受益者に対する贈与が発生し
たとして扱われます。
②相続税
受益権連続型信託(受益権が当該受益者の死亡により、予め指定された者に順次承継される旨の定めのある信
託)の場合は、一次受益者の受益権が消滅し、信託契約により定められた新たな受益者(二次受益者)の受益権が
新たに発生します。この場合は、相続ではありませんが、「みなし相続財産」として受益権に相続税が課税されま
す。
③所得税
信託財産から年間3万円以上の収入がある場合は、翌年1月31日までに、前年の信託財産の状況等を記載した
「信託の計算書」及び「信託の計算書合計表」を税務署に提出する必要があります。また、信託収益については、
3月15日までに確定申告をしなければなりません。
(5)受益権が第三者に移転した場合の税金
受益権は債権の一種であり、無償で第三者に譲渡した場合には新しい受益者に対して贈与税が課されます。ま
た、有償で受益権を譲渡した場合には元の受益者に対して譲渡所得税が課されます。