家族信託の当事者が死亡した場合

1 信託財産は相続の対象にはならない

 信託財産は既に受託者の名義となり独立性を持っているため、委託者が亡くなっても委託者の相続財産には含まれません。信託財産は信託契約に定められた固有の目的、ルールに基づいて管理、運用されます。
 もちろん、信託財産となっていない委託者の財産は、通常通り相続の対象となります。

2 委託者が死亡した場合

 委託者が死亡した場合、委託者が信託契約で次の委託者を指定していない場合には、法定相続人がその地位を相続します。
 しかし、委託者の地位が相続されると相続人間で「争族」になる可能性があるため、「委託者の地位は相続により承継しない」と定めたり、「委託者の地位は相続により承継せずに、受益者の地位とともに移転する」と定めておく場合が多いです。
 信託契約で委託者の死亡が信託の終了事由となっていれば、信託契約で定められた残余財産受益者又は帰属権利者に引き継がれ、信託は終了します。残余財産受益者又は帰属権利者が定められていない場合は、委託者またはその相続人を指定したものとみなされます。帰属権利者とは信託契約において残余財産の帰属すべき者として指定された者、残余財産受益者とは信託契約において残余財産の給付を内容とする受益債権にかかる受益者として定められた者を言います(信託法第182条)。
 委託者の死亡が信託の終了事由となっていなければ、委託者の死後も信託は存続し、信託財産の管理と運用は引き続き受託者によって行われます。

3 受託者が死亡した場合

 受託者の相続人は、受託者の地位を承継しませんが、次の受託者が選ばれるまで、信託財産を管理しなければなりません。
 信託契約で二次受託者が定めていればその者が、定められていなければ委託者と受益者の合意で選ぶことができます。必要ならば裁判所に申し立てし選んでもらいます。受託者が死亡して1年間、受託者が選ばれなければ、信託は終了します。(信託法第163条)。

4 受益者が死亡した場合

 何も定めがなければ、受益者の法定相続人に、受益権が相続されます。ここで相続されるのは、信託財産ではなく、「受益権」です。信託契約に第二受益者が定められていれば第二受益者に受益権が発生します。

5 信託組成時に注意する点

 委託者や受託者が欠けると、信託の変更や合意での終了ができない、次の受託者を選任できず、信託が強制的に終了してしまう、といったことが起こりえます。
 これを防ぐには、最初に信託をする段階でいろいろなことを想定して、信託契約を設計する必要があります。信託では、信託契約に定めがあればそれが優先されますので、どの当事者が死亡した場合も、信託契約で、その当事者が死亡したら次に当事者になる人を決めておく必要があります。
 例えば、受託者が死亡したときの次の受託者を指定しておく、委託者と受益者だけで信託を変更できるようにしておくなど実情に合わせて必要なことを定めておく必要があります。誰が先に亡くなるかは、誰にもわかりません。信託の目的が達成できるよういろいろなケースを考えて信託の内容を決定することが重要です。

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